法定相続について
まずは、遺言がない場合の手続きをご紹介します。民法では誰が相続人となるのかを定めていますが、さらに各相続人が受け継げる相続分についても定めています。これを「法定相続分」といいます。それでは、どのように相続分を分け合うのか、よくある事例で見ていきましょう。
【事例1】 「配偶者」と「子」が相続人の場合・・・配偶者が2分の1、子が2分の1
※子が複数いる場合は、子は2分の1をさらに人数分に分け合った相続分となります。
【注意:非嫡出子(婚姻によらない子)の相続分を嫡出子(婚姻による子)の相続分の半分とする民法の規定は、平成25年の最高裁判決により違憲と判断されました。
上記判決の結果として、非嫡出子・嫡出子とも相続分は同じになりました。】
【事例2】 子供がおらず、「配偶者」と「親」が相続人の場合・・・配偶者が3分の2、親が3分の1
※両親2人とも相続人となる場合は、両親は3分の1を均等に分け合った相続分となります。
【事例3】 子供がおらず、両親とも他界しており、「配偶者」と「兄弟姉妹」が相続人の場合・・・配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
※兄弟姉妹が複数いる場合には、原則として兄弟姉妹は4分の1をさらに人数分に分け合った相続分となります。
※例外として、父母を同じくする兄弟(全血兄弟)と一方を同じくする兄弟(半血兄弟)がいる場合、半血兄弟の相続分は全血兄弟の相続分の半分になります。
それでは次に、誰が相続人になるのかわかったところで、相続手続きにどのようなことが必要なのか確認していきましょう。一般的には次の5つを揃える必要があります。
- 被相続人(亡くなった方)の出生~死亡までの戸籍すべてを集める。
- 相続人全員の戸籍を集める。
- 遺産分割協議書を作成する。
(※遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産をどのように分けるか話し合った内容をまとめた書類です。)
- 遺産分割協議書に相続人全員の実印を押印する。
- 相続人全員の印鑑証明書を集める。
ポイントは、財産の分け方について「全員の意見の一致が必要」ということです。多数決ではありませんのでご注意ください。1人でも実印を押してくれない人がいると最終的には家庭裁判所で争うことになります。兄弟姉妹が相続人になるケースは意外にも知らない方が多く、亡配偶者の兄弟姉妹の実印がなければ預金すら引き出せないため、その時になってビックリしてしまいます。
実際にあった案件をご紹介します。
ある日、奥様が私のところに「死亡した主人の兄弟姉妹が実印を押してくれず、預金が引き出せなくて生活に困っている」と相談に来られました。奥様としては、「二人三脚で老後のために貯めてきた預金が兄弟姉妹の実印がないと引き出せないなんて納得がいかない」と話しておられました。
その後、遺産分割協議書を作成し、奥様は勇気を振り絞って再びご主人の兄弟姉妹に会いにいきました。事情を説明し、印鑑を押してもらえませんかとお願いしたところ・・・兄弟姉妹はこう言い放ったのです。
「兄さんは、両親から多くの遺産を相続していた。だから、兄さんの遺産は私たち〇〇家のものであって、元々はあなたのものではない。むしろ返してください!」
奥様は泣き崩れてしまいました。その後、家庭裁判所で争っていましたが、心労がたたった奥様は体調を崩されて、早くお亡くなりになってしまいました。
この話には続きがあります。
奥様が亡くなったら、兄弟姉妹の4人が遺産を独占できると思いますか?
実はそうではなく、奥様の相続人である地位はさらに、奥様の相続人に引き継がれることになります。さて、一体どうなったでしょうか。
奥様も5人兄弟姉妹でしたので、奥様の相続権は、奥様の兄弟姉妹に相続されます。
つまり、家庭裁判所ではご主人の兄弟4人と奥様の兄弟4人の計8人で遺産を争うことになります。元々夫婦2人の財産だったはずが、遺言書をしっかり作成しておかなかったばかりに、ある意味で部外者である兄弟姉妹同士が遺産を争うことになってしまったのです。
ちなみに、もし兄弟姉妹で死亡されている方がおられる場合は、さらにその子にまで相続権が発生しますので、もし死亡されている場合は甥っ子・姪っ子を含めた未曾有の遺産トラブルとなっていたことでしょう。
次回は、遺言がある場合のお話をさせていただきます。お楽しみに!