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【家族信託】受託者が信託の本旨に従い信託財産を処分した場合の登記、そして決済 ~所有権移転及び信託登記抹消~
過去に当事務所が組成に関与した家族信託の案件がありまして、今年に入ってさっそく受託者の信託契約に基づく第三者への売却が成立しました☺
受託者から第三者への売買及び信託登記抹消の登記原因証明情報を作成したのですが、そう頻繁にある登記ではありませんので、備忘録として残しておこうと思います。
(※信託不動産の処分は信託契約によりケースバイケースですので、ブログ記事に関するご質問には回答しかねます。参考にされる場合は、自己責任お願いします。)
登記原因証明情報
〇〇地方法務局 御中
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 所有権移転及び信託登記抹消
(2)登記の原因 令和 年 月 日売買
信託登記抹消 信託財産の処分
(3)当 事 者 権利者 甲
義務者 乙
(4)不動産の表示及び信託目録の表示
後記のとおり
2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)乙は、令和 年 月 日付で委託者Aと乙との間で締結された信託契約(以下、「本信託契約」という)に基づく信託受託者である。
(2)乙は、本信託契約の本旨に従い、令和 年 月 日、甲に対し本件不動産を売却する契約を締結した。
(3)上記売買契約には、所有権は売買代金全額を支払ったときに移転するという特約が定められている。
(4)上記売買契約に基づき、甲は乙に対して、令和 年 月 日に売買代金全額を支払った。
(5) よって、同日、乙から甲に本件不動産の所有権が移転し、本件不動産の信託は終了した。
不動産の表示 ≪省略≫
信託目録の表示 ≪省略≫
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(売主)(住所)
(氏名) ㊞
以上の登記原因証明情報で登記完了しました。
ちなみに、売買代金は受託者乙が受領しますが、あくまでも売買代金は信託財産に属するため、課税上は受益者(この案件の場合は委託者兼受益者であるA)の収益となります。よって、譲渡所得税などは受益者Aに課税されることに注意を要します。
司法書士としてアドバイスすべき点はたくさんありますが、その中でも取引の際に受託者乙に対して、以下の点は最低でもお伝えすべき事項かと思います。
①売買代金の振込先は分別管理している信託口口座に振り込んでもらうこと。
(誤って受託者乙が個人的に使用している口座に振り込まないこと)
②譲渡所得がある場合は、受益者Aについて税務申告が必要であること。
ケアマネジャー様対象の終活セミナーを行いました【八幡浜市社会福祉協議会様主催】
八幡浜市社会福祉協議会様主催でケアマネジャー様を対象とした終活セミナーが開催されました。
本セミナーは、一般社団法人エンディングパートナーとして登壇させていただきました。たくさんのご参加いただきまして、社協様をはじめ関係者の皆様ありがとうございました!
(※残念ながら、宅地建物取引士の井上裕士さんは別用のため登壇できませんでした)
ケアマネジャーといえば、私たちよりも最前線で介護・支援が必要な方と直接的に向き合っておられる方々です。仕事を行うにあたって本人や家族の話を聞くこともたくさんあるはずであり、その話の中でご本人の悩みの種をひとつでも解消できるように我々もお手伝いできるはずだと考えています。
高齢化・おひとり様問題は、八幡浜市だけでなく地域全体で解決していかなれけばならないことばかりです。私たちエンディングパートナーはこういった周知活動を通じてボランティア活動を続けて参ります。今後ともご支援宜しくお願い致します。
以前NHKクローズアップ現代から取材を受けた回が放送されました‼️
以前、NHKクローズアップ現代から私が電話取材を受けた回が放送されました🤗私は出演していませんが(笑)ぜひ読んでみてください!!
NHKクローズアップ現代「突然相続でトラブル 借金・負動産がなぜ私におじおばの分が…」
記事👉http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4366/index.html
当事務所にもこのような「突然相続」のご相談は毎日のようにあります。
本日は身内に認知症の方がおられる方にメッセージ❗️【南海放送ラジオレギュラー出演中】
本日は南海放送ラジオで、身内で認知症の方がおられる方にとっては必聴の内容でお伝えしました😄
最初に個人賠償責任保険のことを、誤って個人賠償「生命」保険と言ってしまいました。失礼いたしました🙇♂️
ぜひ以下のURLから聴いてください‼個人賠償責任保険は、少額の保険料で、大きな保障を得られますよ☀
http://radiko.jp/share/?t=20191206101525&sid=RNB
江刺伯洋のモーニングディライト | RNB南海放送 | 2019/12/06/金 |
【法改正】「特別の寄与の制度」により内縁関係の妻や同性愛者は救われるか?
特別の寄与の制度は、令和元年7月1日からスタートした制度で、被相続人の療養看護等に勤めた人の貢献を認めることにより、不平等をなくす目的で新設されました。画期的なのは「相続人でなくても、親族であれば」特別寄与料を請求できるようになったことにあります。
それでは、「特別の寄与の制度」により内縁関係の妻や同性愛者は救われるでしょうか?
内縁関係とは、いわゆる事実婚のことで法律婚でない(戸籍上婚姻関係にない)夫婦のことを指します。同性愛者とは、主にレズビアン(女性同性愛者)やゲイ(男性同性愛者)のことを指します。
当然、これらの方々についても特別寄与料の請求を認めるべきとの意見も多くありましたが、今回の改正では認められませんでした。
感覚的には、認めないのはおかしいとも思えます。しかし、逆に特別寄与料の請求を認めたとすると、その当事者間で主張・立証が繰り返される等して、相続をめぐる紛争がいっそう複雑化・長期化するおそれがあるという理由で保護の対象からは外れてしまいました。
想像してみてください。死亡したあとに複数の人が「私が内縁の妻です!」「私がパートナーです!」と手を上げる可能性だってあるのです。その場合は、何をもって内縁関係があったと認定すればよいでしょうか。日本全体で一律した線引きができるはずがありません。日本において、家族関係は戸籍でしか証明できないのです。つまり、権利を認めなかった理由は、認めると「現場が混乱する」からです。同性婚については、現時点での日本では認められていないため、そもそも婚姻することができません。
それでは、内縁関係や同性愛者の方々は泣き寝入りするしかないのかというと、そんなことはありません。財産を遺したい方に対して、遺言を残しておけばよいのです。遺言を残しておけば、たとえ相続権のないパートナーや友人に対しても財産を遺してあげることができます。
これは私の個人的な考えですが、生前に相続対策をせずに亡くなり、家族に寄与分を主張させてしまう被相続人(亡くなった方)にそもそもの責任があると思っています。介護等の世話をしてくれた家族がいるのであれば、しっかりと遺言書を作成し、その感謝を形にしてあげるべきです。遺産争いを嫌というほど見てきた私からすれば、残された家族にそのような争いの火種を残してこの世を去る被相続人は無責任だと言わざるを得ません。
仮に、遺産を平等に遺したい場合であっても、それならそれで「平等に遺す」旨をはっきりと遺言書で意思表示をするべきです。「そんなこと知らなかった」という方は多いですが、「知らなかった」では済まないレベルの遺産争いが勃発してしまうのが相続なのです。
NHK「クローズアップ現代+」から取材を受けました!
本日、NHK「クローズアップ現代+」様から取材を受けました☺
あの有名な番組から取材をいただくなんて、大変光栄なことです!!きっかけは都会にいる知り合いの司法書士の方が、坂本司法書士なら地方での相続案件に積極的に取り組んでいるからきっといい話が聞けますよとご紹介していただいたからのようです。ありがとうございます。
テレビカメラでの取材ではなくて、ディレクターさんから電話で1時間30分程度、相続の現場の話を取材していただきました。番組のことなので内容は伏せておきますが、電話取材とはいえ、なかなか経験できないことなのでとても刺激的な1日でした。
取材の中で、今年受任したお客様のとあるトラブル事例を話すと「ぜひそのご本人に取材させてください。顔はモザイクかけますので、なんとかアポ取れませんか?」とお願いされました。まさに取材したテーマにぴったりの案件だったようです。私もご本人に申し訳ないと思いながらも、ダメ元でお願いだけしてみましたが、「テレビ出演はちょっと・・・」ということでやはりNG。。
当事務所にカメラが入るかも!?と一瞬思いましたが、そりゃお客様からすれば、やっぱりハードルが高いです。トラブル事例ですので、心理的にお断りされるお気持ちはごもっともです。
その他にも私の経験した事例を(もちろん個人情報は伏せて)お話しまして、都会にはない田舎ならではの事例に興味を持っていただきました。
今後も引き続き電話とメールでやりとりすることになりましたので、テレビ出演のオファーも来ないかな~(笑)なんて妄想しています。
実家に架空請求のハガキが届いた・・・!!【祖母宛て】
本日祖母宛てに訴訟提起のフリをした架空請求ハガキが届きました!
祖母は身に覚えのない架空のハガキにかなり動揺しており、私に助けを求めてきました(笑)
「大丈夫だよ。無視しておけばいいからね!」と伝えると安心したようです。
そもそも「法務省管轄支局」なんてありません😅私からすればツッコミどころ満載のハガキですが、一般の方がびっくりするのも無理はありません。
そのほか、法務省ホームページによると類似の差出人は、以下のようなものがあるそうですのでいずれもご注意ください。これらの団体と法務省とは一切関係がありません。
「法務省管轄支局 国民訴訟通達センター」
「法務省管轄支局 民事訴訟管理センター」
「法務省管轄支局 訴訟最終告知通達センター」
「法務省管轄支局 国民訴訟お客様管理センター」
「法務省 被告管理事務局 相談窓口」
八幡浜市ですので、他のご自宅にも届いているかもしれません。ご親族やお知り合いに騙されないように教えてあげてください。
文末に「プライバシー保護の為、ご本人様からご連絡いただきます様、お願い申し上げます。」って、誰かに相談させる前に電話させようとする魂胆が見えますね!
当たり前ですが、ハガキに記載されてある電話番号には絶対に電話をしてはいけません。無視してください。連絡先が本当の裁判所であるかどうか、電話帳や消費生活センターなどで確認しましょう。
最寄りの消費生活センターがご不明の場合は、消費者ホットラインがありますのでコチラに電話しましょう。
電話番号:188(いやや!)
本当に裁判所からの督促状であれば「特別送達」という特殊な方法で送られてきます。裁判所からの支払督促が、単なるハガキや単なる封書で送られてくることはありません。
また、送ってきている裁判所が「簡易裁判所」であるかどうかも確認してください。支払督促の制度が利用できるのは簡易裁判所だけですので、そのあたりも参考にしてみてくださいね☺
清算結了済みの会社名義不動産が残っていた場合の所有権移転登記 ~清算人と利益相反行為~
先日、「清算結了登記済みの会社名義の不動産が残ってしまっているので、実体に合わせるための所有権移転登記をお願いしたい」とのご依頼がありました。今回ご依頼いただいた案件は利益相反行為にも該当する案件であったため個人的な備忘録として残しておきます。
清算結了登記済みのケースでは、以下の3パターンのどれかの方法で手続きを進めることが考えられます。
①会社を復活(清算結了登記の抹消)して、手続きを行なう
②会社は復活(清算結了登記の抹消)せずに、裁判所にスポット清算人に選任してもらって手続きを行なう
③会社は復活(清算結了登記の抹消)せず、また、裁判所にスポット清算人も選任せずに、当時の清算人が手続きを行なう
(※案件によってケースバイケースですので、ブログ記事に関するご質問には回答しかねます。参考にされる場合は、自己責任お願いします。)
今回は清算結了前にすでに売却済み(実体上の残余財産はなく、登記義務だけが残っている状態)であり、清算結了当時の清算人の方がお元気でしたので、③で行なうことにしました。
案件によりケースバイケースですが、
登記義務が残っているだけでなくて、実体上残余財産が残っていたのなら①を選択すべきといえます。
また、実体上の残余財産が残っておらず登記義務だけが残っている場合において、さらに清算結了当時の清算人が全員死亡してる場合には、②を選択することになるでしょう。
今回の③のケースは、以下の登記研究や先例によって、清算人個人の実印(市町村長発行の個人の印鑑証明書添付)で登記手続きが可能です。
参考文献 登記研究480(P132)
【六九一三】清算結了の登記後の登記申請手続
〔要旨〕株式会社の清算結了の登記前に売却によって所有権が移転した不動産を、清算結了の登記後、元清算人から、登記義務者たる清算会社を代表して清算結了の登記前の日付を登記原因日付として所有権移転の登記申請をすることができる。なお、申請書に添付すべき印鑑証明書は、市町村長の証明した元清算人個人の印鑑証明書で足りる。
〔問〕株式会社が清算結了登記後、元清算人からその登記前に売買によって所有権が移転している不動産について清算会社を代表して登記義務者として、清算結了前の日付による所有権移転登記を申請できると思いますがいかがでしょうか。また清算人は現存しておりますので、その者の個人の印鑑証明書を添付すればよろしいでしょうか。
〔答〕御意見のとおりと考えます。
≪類似の先例 昭28.3.16民甲383、昭30.4.14民甲708≫
また、今回の案件については、清算結了前に行なった売却が利益相反行為に該当するので、株主総会議事録(※清算人会設置会社であれば、清算人会議事録)を作成しなければなりませんでした。その利益相反行為の承認に関する株主総会議事録に押印する印鑑についても清算人個人の実印で押印・作成し、市町村長発行の個人の印鑑証明書添付でかまわないとの回答を法務局からいただきました。なお、利益相反行為の議事録については作成日は今現在でも、株主総会開催日は売却当時の日付にしてくださいとも言われました。そりゃそうですよね。
(※利益相反については、担当登記官の判断によって異なる可能性があります。)
会社法上もともと株主総会議事録には押印義務はありませんからね。しかし、登記手続きになると真正担保のために印鑑証明書を添付しなければならない関係で、どうしても押印しなければなりませんので、「う~ん、どうかなぁ。利益相反行為に該当する場合には、会社を復活させないといけないのかな?」なんて頭をよぎりましたが、議事録作成者のその印鑑も個人の実印でOKってことでご回答いただきました。
大変勉強になる案件に出会えて感謝です!!
【大阪!!】司法書士同期、そしてお初天神巡り
皆様、先日の三連休はどのようにお過ごしでしょうか?
私は、久しぶりに司法書士の同期合格の友人たちに会いに大阪に行ってまいりました!(^^♪
時が経つのは本当に早いですね。人生をかけて共に勉強した時期もはや7年も前になります。
受験時代の話題とは打って変わって、実務の話やビジネスの話に花が咲き、次のステージで活躍しているみんなの話はとても刺激になりました。一番苦しい時期に励ましあった仲間は一生ものです。これからもこの繋がりは大事にしてきたいと思います。今回会っていない同期たちとも次回声をかけて飲みに行きたいです!
そんな人生をかけて勉強していた時期に毎日通った神社があります。
帰り道、職場である北浜のほうから梅田向かって歩くのですが、途中に「お初天神」という神社があります。この神社には大変お世話になりました。
毎日、「将来司法書士になって人の役に立ちたい」と願い、見守っていてくださいと手を合わせていました。帰り道ということもありますが、数にすれば少なくとも2000回以上は手を合わせました。私は宗教に疎いですし、信心深いわけでもありませんが、自分へ言い聞かせるつもりで通っていました。
改めて訪問すると、青春だったな~なんて、しみじみ思います(笑)
いやっ、過去形ではなく、今も青春真っただ中です!!お初天神の神様に現状報告して、また次のステージで必死にもがいていきたいと思います!!
配偶者居住権とは?~2020年4月1日からスタート~
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、亡ご主人様名義の自宅の所有権を奥様以外の人が相続したとしても、引き続き奥様が住み続けることができる権利です。
一般的には、夫が亡くなった後も、住み慣れた自宅で住み続けることを希望するのが普通です。特に、相続人である配偶者が高齢者である場合には、住み慣れた自宅を離れて新たな生活を始めることは精神的にも肉体的にも大変な負担となるとはずです。しかし、相続をきっかけとして配偶者が悲惨な想いをする事例が増えてきたため、配偶者を手厚く保護するために、たとえ自宅を相続しなくとも一生住み続けることができる権利を新設したのです。
配偶者居住権は、所有権ではなく「住む権利(居住権)」であるため、所有権をそのまま相続する場合と比べて評価額が低額になります。その分、老後資金となるお金を多く配偶者に相続させて配偶者の権利を保護しようとしたのが新設の目的です。
次の例をご覧ください。
【例】相続人が妻及び子1人、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)だった場合。
妻と子の相続分=1:1(妻2500万円 、子2500万円)
(法務省ホームページ参照http://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf)
〈配偶者居住権を利用しないケース〉
妻が相続する財産 ⇒ 自宅(2000万円)+預貯金500万円
子が相続する財産 ⇒ 預貯金2500万円
妻が自宅に住み続けることを前提として、自宅の所有権を妻が相続する場合は、自宅の価値2000万円分を相続したことになるため、預貯金は500万円しか相続することができません。これでは、住む場所はあっても老後の生活費が不足しそうで不安ではないでしょうか。
〈配偶者居住権を利用するケース〉
妻が相続する財産 ⇒ 配偶者居住権(1000万円)+預貯金1500万円
子が相続する財産 ⇒ 負担付き所有権(1000万円)+預貯金1500万円
※配偶者居住権1000万円は仮の価格です。
このように相続すれば、自宅に住み続けることができるし、老後の生活費も多く取得することができるため、安心して生活することができます。
配偶者居住権を取得するためには、どうすればよいか?
配偶者居住権が成立するためには、以下の要件をすべて満たしていなければなりません。
① 被相続人死亡時に、被相続人の所有である建物に配偶者が居住していること
② 遺産分割協議 or遺贈 or死因贈与により配偶者居住権を取得したこと
③ 被相続人が配偶者以外の者と共有持分を持っていないこと
まず、①の「被相続人死亡時に、被相続人の所有である建物に配偶者が居住していること」ですが、被相続人の死亡時に住んでいなければなりませんので、被相続人の死亡後に住み始めた場合は、配偶者居住権を取得することはできません。
次に②の「遺産分割協議 or遺贈 or死因贈与により配偶者居住権を取得したこと」については、遺産分割協議or遺贈or死因贈与の3つの取得方法があり、1つ目の遺産分割協議とは、「話し合い」のことです。相続人全員の間で話し合いをして配偶者居住権を設定することになります。2つ目の遺贈については、被相続人が生前に「妻に配偶者居住権を取得させる」旨の遺言を書いておいた場合のことです。3つ目の死因贈与という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。死因贈与とは、「私が死亡したら、妻に配偶者居住権を取得させる」旨の贈与契約をすることです。通常の贈与と異なる点は、「死亡したら」という点です。通常の贈与については、契約したときにすぐに効力があるのですが、死因贈与は「死亡時に」効力が発生する契約になります。
遺贈と死因贈与は似ていますが、決定的に違うことがあります。遺贈(遺言)は、被相続人が1人で作成するものですので、いつでも1人で取り消すことができます。ところが、死因贈与は2人で行う「契約」ですので、片方が勝手に取りやめることができないのです。つまり、死因贈与の方が確実に実行することができるということになります。
配偶者居住権を取得するかどうかあらかじめ決めておけるのは、遺贈と死因贈与だけです。ご主人様が元気なうちに話し合って、配偶者居住権を取得するかどうか決めておくとよいでしょう。
③の「被相続人が配偶者以外の者と共有持分を持っていないこと」とは、「亡ご主人様の持分2分の1、Aさんの持分2分の1」のように奥様ではないAさんの名義が入っているなら配偶者居住権は取得できません、という意味です。ちなみに、このAさんはたとえ法定相続人であっても配偶者居住権を成立させることはできません。なぜなら、このAさんにとっては、配偶者が亡くなるまでずっと使用することができず、タダで居住を認めなければならないため、それはあまりに酷であるという理由からです。
しかしながら、相続人の間で配偶者居住権について揉めてしまうこともあるでしょう。その場合、配偶者は家庭裁判所に対して「配偶者居住権を認めてほしい!」と助けを求めることができます。家庭裁判所の中での話し合い(「調停」といいます。)で解決できない場合は、最終的に「審判」といって家庭裁判所に決めてもらうのですが、このときに家庭裁判所が配偶者に配偶者居住権を認めるためにはある条件があります。その条件とは、「建物の所有者が建物を使えなくなるデメリットを考慮してもなお、配偶者に配偶者居住権を取得させる必要性が特に高い」事情があることです。
では、その必要性って具体的にどのくらいなのかという疑問があると思われますが、こればかりはケースバイケースで家庭裁判所が判断するため、これからの判例の蓄積を待つしかありません。しかし、配偶者の住む場所を確保するための法律ですので、多くのケースで「必要性が高い」と判断されると考えられます。
配偶者居住権を使って、他人に貸すことができる!!
配偶者居住権とは、住む権利です。あくまで所有権は持っていないため、自分の物としていい加減に使用してはいけません。よって、善良な管理者の注意をもって(「善管注意義務」といいます。)使用しなければなりません。難しく聞こえるかもしれませんが、要は、賃貸アパートを借りているつもりで使いましょうという程度のものです。したがって、建物の改築・増築をしたいときには所有者の承諾を得なければならないことになっています。
同じ理屈で、配偶者居住権は誰かにあげることはできません。「配偶者」居住権なのですから、配偶者だけが特別に認められた権利なのです。
ところが面白いことに、この配偶者居住権は、あげることはできないけれども、他人に貸して賃料をもらうことはできるのです。貸すためには所有者の承諾は必要になりますが、貸すこともできるという柔軟な取り扱いは、残された配偶者にとって大変ありがたいのではないでしょうか。
いくらで貸せるかについては、これは貸主と借主の合意ですので、お互いさえよければ、相場より高く貸すのも、安く貸すのも自由です。まずは、近隣の相場を参考にしてみるのがよいでしょう。
配偶者居住権を「期間限定」とすることもできる!
配偶者居住権は「期間限定」とすることも可能です。前述した遺産分割協議 or遺贈 or死因贈与の中で「配偶者居住権は令和〇年〇月〇日まで」のように期間を定めておけば、そのときまでとなります。
ただし、この期間限定の定めは、定めることができるのであって、特に何も期間を定めなければ、配偶者が亡くなるまで(終身間)効力があります。つまり、「原則として、死ぬまで」というわけです。
なお、期間について「当分の間」とか、「別途改めて協議するまでの間」等、他人から見て不明確である定め方は認められませんので注意が必要です。誰が見ても、「配偶者居住権は、〇年〇月〇日までの期間である」とはっきりわかるように定めるなければいけません。
配偶者居住権は「登記」をしなければ、その権利を主張できない!
まず「登記」とはなんでしょうか。世の中の不動産(土地や建物)には、「この土地はAさんのもの」「この建物はBさんのもの」のように名札が貼ってあるわけではありません。建物に表札があったとしても、もしかしたら住んでる人は借りているだけで、所有者は別の人かもしれません。
それではどうすれば「この土地は〇〇ものだ」ということがわかるのかというと、あまり知られていませんが、不動産については全国の法務局に「所有者が誰か、この不動産を担保に銀行からいくら借りているか」等のデータが保管されています。これを「登記」といいます。例えば、AさんからBさんに所有者が変わった場合は、よくAさんからBさんへ「名義変更した」等といいますが、これを正式には「登記した」というのです。この登記をしなければ、法律上「この土地は私のものだ」と他人に主張することができないことになっています。
この登記情報を調べると、その不動産は過去にどのような歴史を持っているか(過去の所有者の変遷等)がすべてわかりますので、いわば「その不動産についての戸籍」のようなものです。
この登記情報は、他人に公開することを目的としているため、法務局に行けば誰でも調べることができます。つまり、お隣さんが、いつ土地を買って、その土地を担保に銀行からいくら借りているのか、誰でも簡単に知ることができるのです。さらにいえば、北海道の人が沖縄の土地の所有者を調べることもできます。
これを知ると、「なぜそんな個人情報を公開しているんだ!」と怒る方もおられますが、むしろ公開していないとマズイのです。考えてもみてください。例えば、あなたが土地を買おうと検討している場合、その土地の所有者が誰なのかどうやって調べますか?自己申告なら、詐欺が横行するでしょう。誰が本当の所有者であるのかわからないのに、「私が所有者だ」と自己申告している人に何千万円も支払えるでしょうか。権利証を持っているかどうかで判断すればいいと思うかもしれませんが、権利証を紛失している方なんてざらにいます。このような理由で「登記」は公開されている必要があるのです。
ようやく本題に入りますが、配偶者がこの配偶者居住権を他人に主張するためには、登記をしなければなりません。何も問題なく住んでいるときは、登記があることのありがたみは感じることはありませんが、登記がないと大変な問題になることがあるのです。
例えば、次のようなケースです。
相続人間の遺産分割協議によって、自宅の所有者は長男Bにして、配偶者であるAには配偶者居住権を設定したとします。それを相続人全員で遺産分割協議書にまとめて保管しているのですが、所有者を長男Bとする所有権移転の登記はしたものの、Aの配偶者居住権の登記はしなかったとします。
長男Bは所有者ですので、Aに承諾を得ることもなく、勝手に他人であるCに売却することことができます。そうすると、所有者(登記名義人)となったCはAに対して「この家は俺のものだから、出ていけ!」ということができます。AはこのCの言うことを聞いて自宅を出ていくしかありません。
もし、Aがちゃんと配偶者居住権の登記をしておけば、Cに対して「私は配偶者居住権を持っているから出ていきません。」と突っぱねることができます。これを法律用語では、「AはCに対抗することができる」といいます。Cはいくら所有権の登記を持っていたとしても、Aの配偶者居住権の登記が「先に」入っている以上、自分では使用できないものを買ったことになるのです。登記は早い者勝ちです。つまり、Aが死亡するまではC は使用できないということになります。
Cは気の毒ではありません。なぜなら、CはBから買う前に登記記録を確認しておけば、Aの配偶者居住権の登記があることはすぐにわかるからです。(※)
※ちなみに、通常の不動産取引では司法書士が間に入って取引することが多く、司法書士が代理で行なう場合は、職務として取引物件の確認・本人確認・意思確認を怠ることなく取引を行ないますので、このような不測の事態になることはありません。よって、司法書士を間に入れることで安心して取引を行なうことができます。司法書士に支払う報酬は、書類作成代や登記申請代だけでなく、法的に安全な取引ができるという安心料と責任料も含まれているのです。
配偶者居住権の期間の定め方について、「当分の間」とか、「別途改めて協議するまでの間」等、他人から見て不明確である定め方は認められませんと前述しましたが、その本当の理由は、他人に公示することが登記の目的だからです。他人が登記記録を確認しても、結局いつまで配偶者居住権が存続するのかわからなければ意味がありません。
なお、配偶者居住権の登記を行なうためには、所有者と配偶者との共同で申請する必要があります。手続きが難しい場合は、登記の専門家である司法書士に相談しましょう。
配偶者居住権の登記をすることの意外な落とし穴
これまでの記述で、登記をすることがいかに大事であるかお伝えしました。登記がなければ、本当の意味で配偶者の権利を守ったことにはなりません。しかし、これらの法律的な視点ではなく、「司法書士実務」の視点からは、意外な落とし穴があります。
それは、配偶者(奥様)が認知症になるリスクです。例えば、奥様が認知症になり、家族での介護が難しい状態となったため、所有者である息子様が奥様の介護施設入居費用を捻出するために(奥様を扶養するための費用にあてるために)自宅を売却しようとする場合に問題が発生します。
配偶者居住権の登記がされている場合、買主であるCは、配偶者居住権の登記を消すことを求めます。なぜなら、配偶者居住権の登記がされている状態で買っても、CはAに負けてしまうのですから、Cからすれば配偶者居住権の登記を消すことを条件に売買するのは実務上当然のことです。(以後、登記を消すことを「抹消登記」といいます。)
自宅を売却する前提となる抹消登記の申請についても、配偶者居住権の設定をするときと同様に所有者である息子様と奥様の共同で申請しなければならないのですが、そのとき奥様は認知症のため申請に協力することができないという事態になります。認知症になって意思表示ができないということは、つまり「登記申請する」という意思表示もできないということになるため、配偶者居住権の抹消登記が申請できません。よって、事実上Cへの売却は不可能となるのです。これでは奥様が亡くなるまで、売却はできなくなります。
もしかしたら、「母のために売却するんだから、そんなの勝手に抹消登記して売ればいいじゃないか。」と思う方もおられるかもしれませんが、実際はそうはいきません。母(奥様)からすれば自分の知らないうちに勝手に住む権利を消されることになるのですから、それは違法な手続きです。仮に司法書士に依頼しても、司法書士は本人の意思確認を必ず行ないますので、意思の確認ができないとわかれば手続きをお断りされます。
このあたりは、実務上非常に難しい問題です。
この配偶者居住権の登記は義務ではないため、配偶者居住権の合意はするが、登記はしないという選択も考えられなくはありません。しかし、登記をしないのならば、奥様は前述の通り不安定な状態におかれることを覚悟しなければなりません。
このような事態が起こり得るため、私としては、もし自宅を売却することがあらかじめわかっているのであれば、配偶者居住権を利用しない方がよいと考えており、このような場合は家族信託をオススメします。家族信託であれば、奥様は安心して自宅に住み続けることができ、万が一奥様が認知症になったとしても、息子様は奥様のために自宅を売却することができるのです。このケースでいうと、自宅は奥様が相続し、その後に奥様と息子様で家族信託の契約を行なう流れになります。
ただし、家族信託を利用する場合は、一度奥様が自宅の所有権の価値をまるまる取得することになるため、配偶者居住権を利用する場合に比べて奥様のもらえる現金が減ることになりますので注意してください。(きっちり法定相続分で遺産分割することを前提としています。)
配偶者が死亡した後の手続きはどうなる?
配偶者が死亡した後の手続きは、シンプルです。配偶者居住権は、配偶者の死亡により消滅しますので、所有者は、配偶者居住権の負担のない「完全な所有権」を持つことになります。
なお、配偶者居住権の登記は自動的に消えるわけではありませんので、抹消登記を行なう必要があります。所有者が単独で抹消登記を申請することができますので、大きな負担になることはないでしょう。
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