俗に「死後の離婚」と言われる姻族関係終了届というものを聞いたことがあるでしょうか。
そもそも「姻族関係」とは?
結婚すると配偶者との婚姻関係とともに、配偶者の両親や兄弟などの血族との姻族関係が結ばれます。つまり、血のつながりがなくても、結婚によって配偶者の血族と親戚関係になるということです。
姻族関係は、配偶者と離婚した場合には、配偶者の血族との姻族関係も自動的に終了します。
しかし、配偶者が死亡した場合には、配偶者の血族との姻族関係は配偶者亡くなった後もそのまま継続されます。
なお、配偶者との婚姻関係は死亡により当然に終了し、離婚することはできません。「死後離婚」とは造語なのです。
根拠規定:民法728条第2項
民法第728条(離婚等による姻族関係の終了)
第1項 姻族関係は、離婚によって終了する。
第2項 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
姻族関係が終了するとどうなる!?
姻族関係終了届を出すと、亡き配偶者の両親・兄弟の扶養義務がなくなります。
なお、姻族関係終了届を提出したからといって、相続した遺産を返す必要はありませんし、遺族年金もこれまで通り受け取れます。
また、姻族関係終了届と戸籍はまったく関係がなく、戸籍には何も記載がされません。戸籍を分けたいのであれば復氏届の提出が必要ですが、離婚の場合と異なり期間制限はなく、死別の場合はいつでも復氏(旧姓に戻る)することができます。さらに、子どもを自分の戸籍に入れるには、子の氏の変更許可申立書を提出するなどの手続きが必要となります。
姻族関係を終了させるには?
配偶者の死後、配偶者の血族との縁を切りたいと望む場合には「姻族関係終了届」を提出することにより、姻族関係を解消することができます。
姻族関係を終了するかどうかは、本人だけの意思によるものであり、姻族の了解は必要なく、本籍地もしくは住居地の市区町村に「姻族関係終了届」を提出するだけで手続は終了します。
この届出はいつでも提出でき、期限はなく、届出日から姻族関係は終了します。
姻族関係終了届をすれば配偶者の姻族関係は終了しますが、死亡した配偶者との間に子供がいる場合、子供は死亡した配偶者の血族との関係には影響がなく、変わらず扶養義務があることに注意が必要です。
つまり、自分は関係を切りたくても、子供は関係を切ることができないため事実上姻族との関係を切れないというケースもあります。これは状況によるためケースバイケースといえるでしょう。
冷たい世の中になってしまったのか
この姻族関係終了届はここ10年で1.5倍に増え、全国で約3,000件届出がされています。
そもそも夫に先立たれた妻には、夫の両親の遺産については相続権がありませんので、扶養義務だけを負担させられるというのは理不尽という考え方もできますし、
世知辛い世の中になったと見ることもできますが、世の中には酷い仕打ちを受けたにも関わらず「家」に縛られている方もおられるはずです。また、経済的な理由からやむを得ず…という場合もあるでしょう。
この制度を使って、安易に扶養義務から解放されましょうなどと言うつもりはありません。そんな冷たい世の中ではあってはならないと思います。
しかし、この制度を利用することにより、過酷な環境から抜け出して自分らしく余生を過ごすきっかけとなる方もおられます。
「知らない」ということは、時に不幸を招きます。
「こういう制度もある」ということを知っていただきたいという想いで今回はブログを書きました。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。