今テレビや新聞で話題の「家族信託」について易しく解説!

家族信託(民事信託)とは?

家族信託とは、ひと言でいうと「自分の財産の管理・処分を家族に任せること」をいいます。いわば、「家族の家族による家族のための信託(財産管理)」と言えます。正式には、「民事信託」といいますが、テレビや新聞で取り上げられる際に多く用いられた言葉が「家族信託」であったため、こちらの言葉が一般的になりつつあります。

「信託って、投資信託のこと?」と思われる方がほとんどですが、仕組みは同じでもイメージは全く異なります。投資信託のように資産運用の「プロ」にお金を預けるのは商事信託といい、「プロではない家族」に資産を預けることを民事(家族)信託といいます。 家族に預けるので、報酬なしとすることができます(報酬を定めることもできます)。特に、管理が継続的に必要な不動産や売却が必要な不動産をお持ちである方には大きなメリットがあるでしょう。

 

それでは、家族信託の仕組みを解説いたします。
家族信託は、委託者・受託者・受益者の3者で成り立っています。委託者(財産を持っている人)が、受託者(信頼する人)に財産を託します。受託者は受益者(財産から利益を得る人)のために、財産の管理・運用・処分を行います。家族信託の最大の特徴は、委託者から受託者に所有権が移転するところにあります。

 

・委託者=当初の財産を所有している人

委託者は、託したい財産を信託財産として受託者に託します。今後の財産の管理・処分に不安があり、信頼できる人に財産を託したい人が、家族信託を行なう際に「委託者」となります。

 

・受託者=信託財産を管理・運用・処分をする人

受託者は、委託者との信託契約に従って管理・運用・処分をします。信託事務を行なうこと、自分の財産と分別して管理すること、帳簿作成・報告等の義務が生じます。受託者は、ご家族の中でもしっかりと財産管理ができ、委託者の想いを理解して、長期にわたって財産管理ができる人が望まれます。なお、受託者になる人は、信頼できる人なら家族でなければならないわけではありません。

 

・受益者=利益を得る権利を持つ人

受益者は、受託者が行なう財産の管理・運用・処分で生じる利益を得ることができる人のことです。例えば、高齢者、認知症の配偶者、障がいを持つ子等が受益者となることが多いでしょう。

また、この他にも必要に応じて、信託監督人(受益者のために受託者を監督する者)や受益者代理人(受益者のために受益者の権利を行使する者)等を定めることができます。

 

なお、委託者と受益者が同一人物である信託のことを「自益信託」といいますが、実務ではほとんどこの自益信託が活用されていますので、今回は自益信託を主に解説いたします。

 

 

「母が認知症で実家が売れない!!」

このような相談を受けることがよくあります。ご高齢になると、認知症になったり、病気になったりして介護費用や入院費用がかさむため、「認知症の母が持っている不動産を売って、母ための費用に充てたい」とのご相談をいただくことがありますが、それはできません。母のためだからといっても、あくまでも母のものですから、代わりに手続きをしようとしても「母の」意思が確認できないのなら売却できません。

 

想像してみてください。自分名義の不動産が、自分の知らないうちに勝手に売却されていたらどうですか?当たり前ですが、立派な犯罪です。法的にそのようなことはしてはいけないことになっています。

それでも、「私は母を介護していて、印鑑も通帳もすべて管理しているのよ!」という声が聞こえてきそうです。何とかして不動産を売却しようとしても、実際の不動産取引では我々司法書士がストップをかけることになります。不動産を売却するということは、不動産の名義変更(これを正式には「登記」といいます)をする必要がありますが、登記のプロである司法書士は、取引の安全のために、必ず売主の本人確認と意思確認を行ないます。このときに売主本人である母が認知症で意思確認ができないとなると、取引中止になるのです。

このような事態にならないように、元気なうちに「もし自分が認知症になったら、自分の代わりに不動産を売却して施設の入居費用にあてる」ことを子どもに信託しておくのです。信託契約書で、将来その約束を確実に実行させていくことを取り決めし、不動産の所有権を受託者である子どもに移しておきます。

 

するとどうなるか?

 

司法書士は、母(委託者)についての本人確認と意思確認は不要となり、子ども(受託者)の本人確認と意思確認を行なうだけでよくなりますので、問題なく売却することができるようになります。ちなみに、受託者が受け取る売却代金は、受託者が管理しますが、これも母のために使うものですし、売却時に発生する税金もその中から支払います。「母のため」の家族信託ですから、当然そのように手続きすることになります。

 

このケースでは、受託者は子どもにしていますが、子どもだけでなく、配偶者・甥姪・法人が受託者になることも可能です。とにかく信頼できる受託者にお願いすることが重要です。

 

家族信託のその他の代表的なメリット

家族信託(ここでは自益信託)には、財産の管理・処分以外にも次のようなメリットがあります。

 

1.贈与税・不動産取得税が課せられることなく、財産の所有権を移転して家族に管理・処分を任せることができます。

 例えば、通常の贈与によって子どもに財産を移すと、贈与税と不動産取得税がかかってしまいますが、家族信託であれば非課税となります。さらに、登記に際に支払う登録免許税(印紙税)も通常の5分の1で所有権移転登記を行なうことができます。

 

2.高齢者となった親が詐欺の被害に遭うことがなくなります。信託した財産については、親に契約する権限がなくなるため、詐欺にあう心配がありません。

 

3.信託した財産の受益者を数世代に渡って指定することができます。当初の受益者が死亡したら次は孫に、その次は・・・というように、あらかじめ受益権の承継先を決めておくことができます。つまり、信託した財産については、遺言以上に財産承継の効果を持たせることができます。(※指定できる年数には制限があります。)

 

このように家族信託は、管理・処分だけの用途ではなく、遺言の代わりとなる機能も持ち合わせているため、相続の常識にとらわれない「想いに即した」資産承継・管理・処分を実現できます。家族の形が多様化している現代においては、この家族信託を用いることによって救われる方は多いはずです。

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