家族信託の手続きの流れ

前回に引き続き、家族信託の手続きの流れを解説いたします。

 

家族信託手続きの流れ

各専門家との面談

信託契約書案の作成

当事者全員の合意

信託契約の締結(家族信託の開始)

信託口座の開設(金銭の管理が必要な場合)

所有権移転及び信託の登記(不動産がある場合)

 

実際には、非常に綿密な打ち合わせとその家族に合った信託契約書を作成しなければなりませんので、すべての案件がオーダーメイドとなります。オーダーメイドであるのは、遺言やその他の手続きについても同じことがいえますが、この家族信託については特に難易度が高く、また自由度も高い傾向があります。実務書やインターネット上にある定型の契約書そのままのものでは到底対応できません。

 

さらに、判例が少ないという点もあり、トラブルが発生しないように十分注意して内容を精査しなければなりません。契約当初は問題がないように見えても、10年後にいざ信託の内容が変更になったり、信託が終了したりする場面になって思わぬトラブルが発生する可能性があります。

 

深く検討せずに家族信託を行なってしまうと、思わぬ不都合や税金が発生することがありますので、家族信託に強い専門家に依頼することをオススメします。この家族信託は専門家の中でも経験したことのない方がまだまだ多いのが現状ですので、専門家に依頼する場合は、家族信託の実務経験があるかどうかを聞いてから依頼されるのも一つの手ではないかと思います。

 

 家族信託においては、一番重要なポイントとなるのが「受託者」を誰にするかという点です。受託者は、受益者のために存在しますので、まずは適切に管理・処分を行なうことができる人物なのかどうかを見極める必要があります。ちなみに、受託者が管理している財産を自分のために使い込んでしまったら、もちろん契約違反ですし、場合によっては業務上横領罪となります。

 

委託者・受託者・受益者を決めることの他に、想定しておかなければならないことがたくさんあります。

その中でも特にポイントになるのは、以下の3点です。

 

1.誰かが死亡した場合はどうするか?

2.どういう場合に信託を終了させるか?

3.信託が終了した場合の財産の行き先はどうするか?

 

例えば、管理している受託者が死亡した場合は、その後管理する人がいないわけですから、あらかじめ次の受託者となる人を決めておくことが望まれます。しかし、家族関係や事情によっては受託者の死亡により信託を終了させた方がいい場合もあるかもしれないため検討が必要です。

 

受益者が死亡した場合はどうでしょうか。受託者は受益者のために管理等を行なうわけですが、あらかじめ「受益者Aが死亡したら、次は受益者Bのために管理してください」という内容を契約書で定めておくことができます(これを「第二次受益者」といいます)。実は、ここに家族信託の凄さがあります。

 

例えば、先ほどの例のように甲野花子が所有している毎月100万円の家賃収入が得られる賃貸マンションがあり、それについて甲野一郎を受託者として信託したとします。

 

 

花子が生きている内は、一郎が管理して、その100万円を花子のために管理するようになりますが、もし母が死亡した場合には、障がいを持った二郎を次の受益者と設定しておくのです。そうすることにより、一郎は花子の死亡後、障がい者である二郎のためにマンションを維持管理し、収益は二郎のために管理することができるのです。それでは受託者の一郎はずっとタダ働きかというとそうではなく、先述のとおり、当初の信託契約の中で受託者報酬を定めておくことも可能です。受託者は大変な役割・責任を負いますので、「受託者の報酬は月3万円とする。」のように設定してあげると、任される一郎も気持ちよく引き受けてくれるかもしれません。

その他、受益者の一切の手続きを代理する「受益者代理人」や、受託者が適切に管理・処分をしているか監督する「受託者監督人」を定めて、より確実に家族信託を行なうことができる仕組みにすることができます。こういった様々な点も検討しなければならないため、専門家が契約書の作成段階から関わってしっかりとした家族信託に組み上げることをオススメいたします。

 

 

家族信託と遺言・生前贈与・後見制度との違い

a)遺言との違い

家族信託と遺言の一番大きな違いとして、遺言は「死亡してから効力が発生する」という点があげられます。家族信託は、契約した時点ですぐに効力が発生します。

例えば、花子が一郎に自宅を相続させる旨の遺言を書いた場合と、信託した場合ではどのような違いがあるでしょうか。

遺言の場合は、花子が死亡するまではずっと花子名義のままであり、死亡すれば一郎に所有権が移転することになります。この点については、家族信託にも同じ効果をもたせることができます(※)。

しかし、花子の存命中に認知症が発症した場合は全く違った結果になります。遺言の場合は、自宅はあくまで花子が死亡するまでは花子の所有であるため、売却することはできません。家族信託であれば、自宅の所有権の名義人は一郎になっていますので、一郎は「母のために」適切な時期に売却することができます。そして、その売却費用は、花子の老後の資金や施設の入居費用にあてることができるのです。

 

※花子の死亡を原因として信託終了し、最終的な自宅の権利帰属者として一郎と定めて契約しておくことによって、遺言と同じ効果を持たせることができます。

 

b)生前贈与との違い

 家族信託と生前贈与の一番大きな違いとして、生前贈与は「完全に自分のものでなくなる」という点があげられます。家族信託においては、あくまで一郎に管理・処分を任せているだけなので、名義は一郎であっても、実質的な所有者は花子です。

さらに、生前贈与であれば一郎に対して贈与税・不動産取得税・登録免許税といった税金がかかりますが、家族信託であれば贈与税・不動産取得税が非課税、登録免許税は生前贈与の税率と比べて5分の1で所有権移転できます。

花子が認知症になった場合については、家族信託であれば前述のとおりですが、生前贈与については完全に一郎の所有となるため、花子が認知症になることを想定する意味がありません。一郎は、生前贈与された時点で自由に管理・処分することができ、売却することによって得たお金は当然一郎のものとなります。

 

c)後見制度との違い

家族信託と成年後見制度(法定後見・任意後見※)は、認知症や障がい者等の判断能力が低下した「本人のため」に財産を管理することができるという点ではどちらも同じ機能を有しています。

大きな違いとして、成年後見制度は家庭裁判所の監督下に置かれるため、毎年家庭裁判所に報告義務があることや、財産を積極的に運用することはできないことが挙げられます。後見制度においては、本人の資産が減る可能性のある投資信託もすることはできませんし、相続対策を行なうこともできません。さらに、本人の自宅を売却する際には家庭裁判所の許可を得なければ売却できないルールとなっています。

家族信託は、委託者と受託者との自由な契約によって開始されるため、家庭裁判所の監視下に置かれることはなく、相続対策を含めた積極的な運用を行なうこともできます。また、後見制度は原則として本人のために財産を使うことしか許されませんが、家族信託では、契約内容を工夫することによって、配偶者や子供等、自分以外のためにも財産を利用することができる点も大きな違いです。

 

家族信託なら状況が変わっても管理し続けることができる!

 家族信託と他の制度の比較を行なうと、次の図のように、たとえ本人(委託者)が認知症になったり、死亡したりして状況が変わったとしても管理を任されている受託者は何ら変わらずに「受益者のために」管理を続けていくことができます。

 つまり、信託した財産については、代理契約と後見制度と遺言の効果をすべて兼ね備えていることになるのです。

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