法定後見と任意後見の違い ~赤の他人に財産管理される可能性がある!?~

法定後見と任意後見の違い

 

(1)始まり方の違い

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害等の理由で判断能力がはっきりしなくなった方の代わりに財産管理をしたり、病院や介護施設の契約を結んだりして、本人の支援をする制度のことをいいます。

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。この「法定後見制度」と「任意後見制度」の最も大きな違いは、始まり方にあります

 

法定後見は、現時点で実際に物忘れが酷かったり、判断能力が低下していたりすることにより、契約や財産管理ができない場合、家庭裁判所に申し立てることによってスタートします。そのときに後見人に選ばれる候補者を立てることはできますが、原則として裁判所が決定しますので、必ずしも親族が選ばれるとは限りません。財産管理等の難易度が高いと判断されると、専門職である司法書士や弁護士が選ばれることになります。

 

これに対して、任意後見は、将来もし判断能力が低下した場合には、誰を後見人にしてどのように任せるかをあらかじめ決めて、本人が選んだ将来後見人になる人と任意後見契約を締結します。そして、実際に判断能力が低下した時点で財産管理等がスタートするというものです。

 

 

・法定後見・・・すでに認知症や精神障害があって、今すぐ財産管理等が必要

 

・任意後見・・・今は元気だけど、将来もし認知症や精神障害になってしまった場合に備えて、財産管理等をしてくれる人を決めておきたい

 

逆にいうと、今元気な方は法定後見を利用することはできないし、すでに認知症等の方は任意後見を利用することはできません。任意後見契約は「契約」ですので、当然ながら契約するための判断能力がなくなってからでは、利用することができないのです。

ここが2つの制度の1番大きな違いです。

 

法定後見と任意後見の利用者の割合については、法定後見が98.8%、任意後見が1.2%というデータがあります(※)。これは一体どういう世情を映しているでしょうか。

それは、法定後見の多くは、実際に本人の家族が「預貯金が引き出せない」、「土地の売却ができない」、「遺産分割協議ができない」「介護施設の利用契約ができない」といった緊急の現実に直面し、必要に迫られてから法定後見制度を利用しているからです。

(※厚生労働省による平成29年末時点での調査結果に基づく)

 

現在日本は超高齢化社会に突入しているため、必要に迫られてこの制度の利用を開始される方は年々増え続けています。これに対して、1.2%しか利用されていない任意後見は、元気なうちに準備を始めなければならないため、現状での利用者はごく少数に留まっています。元気なうちに「もし自分が認知症になったら・・・」と、自主的に備える気持ちにはならないのでしょう。

しかし、知っている上で任意後見制度を利用しないというのならそれでもよいですが、「知っていたら利用したかったのに」という人が多いのは問題があります。これは私のような専門家が情報の周知徹底をできていないことも原因の1つだと反省しています。

 

話はそれましたが、任意後見はあらかじめ契約をすることにより認知症等に備えますが、実際に財産管理等がスタートするのは、実際に判断能力が低下してからです。本人と後見人になる契約をした方(以下、「任意後見受任者」といいます。)が裁判所に申し立てることによって始まります。つまり、任意後見受任者は、本人の判断能力が低下するまでは待機の状態です。もっといえば、亡くなるまで本人の判断能力が低下しないのであれば、何もせずに終わることもあり得るということです。

よって、任意後見の実際のスタートは、任意後見契約締結のときではなく、法定後見と同じように実際に判断能力が落ちてから裁判所への申し立てをして、審判が確定したときです。もっと具体的にいうと「任意後見監督人」といって、任意後見人がしっかり管理をしているかどうか監督する人を家庭裁判所が選任することによりスタートします。法定後見においては、監督人が就く場合と就かない場合がありますが、任意後見においては必ず監督人が就くという違いがあります。

 

(2)法定後見人と任意後見人の「権限」の違い

法定後見は、さらに3類型に分けられます。補助・保佐・後見の3つがあり、どの類型に当てはまるかどうかは、医師の医学的な判断を参考にするなどして、家庭裁判所が決定することになります。

各類型は、次のように判断能力に応じて分類されます。

     後見・・・常に判断能力を欠いている方      重度

     保佐・・・判断能力が著しく不十分な方       ⇕

     補助・・・判断能力が不十分な方         軽度

 

 本人の精神障害の度合いは「補助→保佐→後見」の順に、より重度になります。法定後見を利用される方の中でも、「認知症が重度のため、ほとんど自分で管理ができない方」から「単に金遣いが荒く、自分で管理できない方」まで様々であるため、3類型にわけてあるのです。

 

 

後見

保佐

補助

対象となる方

判断能力が欠けているのが通常の状態の方

判断能力が

著しく不十分な方

判断能力が

不十分な方

申立てをすることが

できる人

本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など
市町村長(注1)

成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意が必要な行為

民法13条1項所定の行為(注2)(注3)(注4)

申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部)(注1)(注2)(注4)

取消しが可能な行為

日常生活に関する行為以外の行為

同上(注2)(注3)(注4)

同上(注2)(注4)

成年後見人等に与えられる代理権の範囲

財産に関するすべての法律行為

申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注1)

同左(注1)

制度を利用した場合の資格などの制限

医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど

(注5)

医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど

(注1) 本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(注2) 民法13条1項では、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為が挙げられています。
(注3) 家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができます。
(注4) 日常生活に関する行為は除かれます。
(注5) 公職選挙法の改正により、選挙権の制限はありません。
※法務省ホームページより引用(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a2)

 

後見については、ちょっとした日用品購入等の「日常生活に関する行為」以外の行為については、後見人は取り消すことができます。例えば、高価な絵画を購入したり、車を買ったりする行為は、普通の人にとって「日常生活に関する行為」とはいえないため、後見人は取り消すことができます。このように後見人は、本人(「被後見人」といいます。)の権利を守るために、後出しで取り消す権限が与えられているのです。
後見と違い、保佐の場合は、法律で定められた範囲内で、特に重要な手続きのみ代理権や同意権の行使が可能な制度となっています。補助の場合は、もっと自由度が増して、特に重要な手続きの中から代理権や同意権の範囲を選択することが可能です。
なぜなら、本人(それぞれ「被保佐人」・「被補助人」といいます。)は、被後見人と違って、常に判断能力を欠いている状態ではないため、一部の重要な手続きのみ支援してあげるだけで十分だからです。

※特に重要な手続きとは、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築等の行為をいいます。

 

法定後見は、本人の財産を守るための制度であるため、本人の資産が減少する可能性のあることは原則として行なうことはできません。それはつまり、法定後見は、本人のためになることしか行なうことができないということです。「そんなことはあたり前だ」と思われるかもしれませんが、ここが意外と法定後見制度の急所となる問題です。
例えば、親族から、「相続税対策をして欲しい」「保険契約をしてほしい」「孫に住宅資金の贈与をしてほしい」と頼まれたとします。たとえ、本人の判断能力がしっかりしているときにそのような口約束をしていたとしても、本人の判断能力が低下してしまった今、もはや本人が本当にそれを望んでいるのかについては確認ができません。
これらの行為は、親族の利益にはなりますが、客観的には本人の財産を減らす行為となるため原則として行なうことができません。
また、積極的な資産運用や投機的な行為も同じです。資産運用は、資産が上昇すればもちろん本人のためになりますが、100%上手くいく保証などありません。実際に財産が増加するかどうかではなく、本人の財産が減少する可能性のある行為をすること自体に問題があるのです。
法定後見は、あくまでも本人の財産を「守る」ことが求められており、積極的に「増やす」ことは求められていないのです。

 

これに対し、任意後見は「契約」ですので、お互いの合意で任意後見人の権限をどのような内容にすることも可能です。 つまり、自分の元気なうちに、自分が必要だと思うことを契約によって決めておくことができ、具体的に管理してほしい財産や、自宅の売ることになった際の希望等を、決めておくこともできます。
このように後見人の権限を自由に「カスタマイズ」することができることが、任意後見最大のメリットといえます。任意後見は、誰を後見人にし、どういった代理権を与え、どのように財産を管理するのかを、判断能力がハッキリしている本人自身が自由に決めることができるのです。
任意後見においては、法定後見とは異なり、任意後見契約書に記載されていれば、それは紛れもなく本人の意思であるため、「相続税対策」「積極的な資産の運用」「贈与」等も任意後見人が行なうことも不可能ではありません。
例えば、法定後見であれば、自宅の売却をするときには家庭裁判所の許可を得なければ売却することはできませんが、任意後見においては、自宅の売却が可能である旨を定めておくと任意後見人は裁判所の得ることなく売却することができます。
ただし、あくまでも本人の財産を、任意後見人が管理処分するということには変わりありませんので、本人が任意後見契約の意味を十分に理解し、親族の思惑で契約させられないように注意しなければなりません。本人の契約意思が慎重され、本人の権利が不当に害されないかをしっかり確認して行なう必要があります。そのためには、本人の資産が減少する可能性のある行為については、無制限に任意後見人の判断で代理できないように、時期・条件・金額・期限・理由等をしっかり記載し、誰が見てもわかるように客観的な判断基準や制限を記載しておくべきでしょう。また、一定の代理行為については、任意後見監督人の同意を要するようにしておく等の工夫が求められます。

(3)任意後見のデメリットとは?
いいことばかりのように聞こえる任意後見ですが、デメリットもあります。
デメリットは、主に次の3点があげられます。

① 取消権がない
② 契約で定めていないことは、代理権がない
③ 公正証書によって作成しなければならない

 

①は、法定後見に比べて、大きなデメリットといえます。判断能力の低下した本人が不利な契約をしたり、騙されて不要な物を買わされたりしたら、法定後見の場合は取消すことができますが、任意後見の場合はその契約を取り消すことができません。取消しするには、一般の方と同じように最終的には裁判所に訴える形で、契約する判断能力がなかったことをわざわざ立証して取消しすることになります。
よって、任意後見を利用していて、もし本人が認知症や精神疾患の症状で不必要な契約を行なう傾向が見られる場合は、任意後見から法定後見へ移行することを検討した方がいいでしょう。

 

②は、メリットと表裏一体です。契約の内容を自分でカスタマイズするという事は、逆にいうと、契約で決めていないことについては、任意後見人は手を付けることができないということになります。したがって、認知症になったあとに「権限を変更したい」「契約の内容変更したい」と思っても後の祭りです。
ただし、想定していないことが起こってしまい任意後見では不都合が生じたときには、任意後見から法定後見へ移行することもできるため、取り上げるほどのデメリットにはならないかもしれません。

 

③任意後見契約書は、公正証書によって作成しなければならないことになっています。公正証書にすることは、一応手間がかかるため、あえてデメリットに挙げました。

 

任意後見契約を公正証書にするためには、公証役場にて以下の費用がかかります。
 
【公証役場の手数料】
1契約につき1万1000円、それに証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます。
【法務局に納める印紙代】
2,600円
【法務局への登記嘱託料】
1,400円
【書留郵便料】
約540円
【正本謄本の作成手数料】
1枚250円×枚数

 

なお、任意後見契約と併せて、通常の委任約をも締結する場合には、その委任契約について、さらに上記1が必要になり、委任契約が有償のときは、公証役場の手数料が増額される場合があります。また、受任者が複数になると(共同してのみ権限を行使できる場合は別として)、受任者の数だけ契約の数が増えることになり、その分だけ費用も増えることになります。(※費用については、日本公証人連合会ホームページより引用)

以上のようなデメリットもありますので、任意後見の利用を考える際には、将来的に起こり得るあらゆる状況を想定し、任意後見契約の内容を検討していく必要があります。

 

(4)任意後見にも3種類ある!
任意後見契約には「即効型」「将来型」「移行型」の3種類があり、本人の状況や希望によって選択することができます。

 

【即効型】・・・任意後見契約書の作成と同時に、任意後見が開始するタイプ。
すぐに財産管理等が必要な場合に有効であり、本人の判断能力が法定後見の「補助」程度に低下している場合には、この即効型を選択することができると考えられます。
この即効型は、契約締結時の本人の判断能力が低下している状態であるため、契約そのものが無効になったり、鑑定に時間を要したりするおそれがあることがデメリットといえます。

 

【移行型】・・・任意後見契約書の作成から、本人の判断能力が低下して任意後見契約が発効されるまでの間は、任意代理を行なうタイプ。
本人の判断能力はしっかりしているが、身体が不自由で思うように動けないため、日常のあらゆる手続き等を代理してほしい状態の方にオススメです。判断能力があるうちは、代理人に様々な手続きを代理してもらい、判断能力が低下した時点で任意後見契約が発効するため、判断能力が低下する前後の切れ目なく代理できることがメリットです。
実際に私が経験したのは、本人の判断能力はしっかりしているが、足が悪く、銀行の入出金や郵送物の受け取りは不可能なため、すべて姪にお願いしている状態の方でした。姪が本人の代わりに郵便局に郵便物を受け取りに行ったら「大事な書類ですので、本人でないとお渡しすることができません。」と断られ、何とか毎回事情を説明して受け取っていました。しかし、郵便物の受け取りがある度に毎回同じ説明をしなければならず、手続きが大変なため、郵便物の受け取りとなると気が滅入るばかりだったのです。そこで、私は移行型の任意後見契約をご提案し、本人と姪との間で移行型任意後見契約を締結しました。契約後は、受任者である姪が郵便物の受け取りや銀行の入出金など、問題なく本人の代わりに手続きを行なうことができたため、大変感謝されました。
このように、現時点で様々な手続きを代行している方にとっては、移行型任意後見契約によってすぐに効果があるので大変便利に感じられると思います。また、認知症となってしまった後も、引き続き任意後見人として代理を続けることができますので、双方にとってメリットのある制度です。

 

【将来型】・・・任意後見契約書の作成だけして、判断能力の低下に備えるタイプ。
この将来型においては、本人の判断能力が低下して任意後見契約が発効するまでの間は、移行型のように代理権を設定しないタイプです。よって、現状は頭も身体も元気で日常生活に問題はないが、もし認知症になったときに備えて後見人を決めておきたい方にオススメです。
ただし、この将来型の任意後見契約は、まさに将来のことであるため、予定している任意後見人と本人との関係が疎遠になったり、関係が悪化したりして、後見を開始できない可能性もあるのがデメリットといえます。
また、近くに住んでいない場合は、本人の判断能力が低下していても、それに気付かず、任意後見の開始が遅れてしまうおそれもあります。そのため、なるべく定期的に本人の状態を確認する契約(「見守り契約」といいます。)とセットで行なう等の工夫が必要です。

 

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