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任意後見契約とセットで準備しておきたい5点セットとは?

2023-04-24

前回に引き続き、任意後見に関する記事を書きます。

任意後見契約を行なうと決めたのであれば、是非ともセットで検討してほしいのが次の5つです。

 

任意後見契約

  +

(1)見守り契約

(2)公正証書遺言

(3)家族信託契約(民事信託契約)

(4)尊厳死宣言

(5)死後事務委任契約

 

(1)見守り契約

 見守り契約とは、任意後見が始まるまでの間に、支援する人が定期的に本人と連絡を取ったり訪問したりすることにより、支援する人が本人の健康状態や生活状況を確認することによって、任意後見をスタートさせる時期を判断するための契約です。

 任意後見契約だけを契約しても、いざ判断能力が落ちて、任意後見契約の効果をスタートさせたいときに、それを後見人が知らないのであれば契約した意味がありません。そこで任意後見契約とセットで見守り契約をすることにより、より安心して生活を送ることができます。

 

(2)公正証書遺言

(3)家族信託契約(民事信託契約)

公正証書遺言と家族信託契約は、相続対策・認知症対策において非常に有効な手段ですが、どちらも認知症になってしまっては、もはや行なうことができません。残念なことですが、どちらの手続きも、いざ認知症の疑いが出てきたときに、本人の親族が「今のうちに何か対策できることはないか?」と焦ってご相談に来られることが多いです。そうなってからではすでに遅い場合があるので、任意後見契約を検討されている方は、今まさに元気なときにセットで検討してみてはいかがでしょうか。

公正証書遺言については第2章で、家族信託については第7章で詳しく解説しておりますので、そちらをご覧ください。

 

(4)尊厳死宣言

 「尊厳死」とは、回復の見込みのない末期状態の患者に対し、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせることをいいます。「尊厳死宣言公正証書」とは、本人が自らの考えにより延命措置を控え、中止する宣言をし、公証人がこれを公正証書にするものです。

近年、過剰な延命治療を打ち切って、自然な死を望む人が多くなってきました。医療の進歩により、患者が植物状態になっても長年生きている例がきっかけとなり、単に延命を図る目的だけの治療が、果たして患者のためになっているのか、逆に患者を苦しめ、その尊厳を害しているのではないかという問題提起から、本人の意思を尊重するという考えが重視されるようになりました。そして、単なる死期の引き延ばしを止めることは許されるのではないかと考えられるようになったのです。

 また、医師の視点からすると、延命措置をしないという判断をすることは医師として非常にリスクの高い行為であるため、延命措置を中断しない場合もあり得ます。そのため、医師の免責の観点からしても「尊厳死宣言公正証書」で作成されていることで、本人の尊厳死が守られることもあるのです。

 なお、この尊厳死宣言公正証書は、日本公証人連合会の初調査で平成30年1~7月の7カ月間で978件も作成されていることがわかりました。これからさらに増えていくことが予想されます。

 

(5)死後事務委任契約

死後事務委任契約とは、主に葬儀や埋葬に関する事務を委託する契約のことです。

本人(委任者)が、受任者に対し、自己の死後の葬儀や埋葬に関する事務についての代理権を付与して、自己の死後の事務を委託する委任契約を「死後事務委任契約」といいます。

 

【死後事務の内容】

・医療費の支払いに関する事務

・家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務

・老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務

・通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務

・菩提寺の選定、墓石建立に関する事務

・永代供養に関する事務

・相続財産管理人の選任申立手続に関する事務

・賃借建物明渡しに関する事務

・行政官庁等への諸届け事務

・以上の各事務に関する費用の支払い

 

最後の自己表現として葬儀の内容を具体的に指定したり、散骨を埋葬の方式として指定したりする場合には、遺言者が生前に遺される方々に対して希望をお伝えし、実際に葬送を行なうことになる人々との話し合いや準備をしておくことが大切です。

遺言では、遺言者の希望する葬儀が確実に行なわれるようにするために、祭祀の主宰者を指定することも必要になりますし、遺言執行者を指定して、その遺言執行者との死後事務委任契約を締結する方法も考えられます。

 

この任意後見契約プラス5点セットを準備しておくことによって、身上監護と財産管理を万全なものとした上で、死後の相続、相続財産の管理、または処分および祭祀の承継に紛争を生じないようにすることができます。何も6点全部を準備する必要はありません。ご自身に必要だと思うものを準備しておけばそれで十分ですので、まずは司法書士や弁護士をはじめとする相続の専門家に相談してみることをオススメします。

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法定後見と任意後見の違い ~赤の他人に財産管理される可能性がある!?~

2023-04-17

法定後見と任意後見の違い

 

(1)始まり方の違い

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害等の理由で判断能力がはっきりしなくなった方の代わりに財産管理をしたり、病院や介護施設の契約を結んだりして、本人の支援をする制度のことをいいます。

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。この「法定後見制度」と「任意後見制度」の最も大きな違いは、始まり方にあります

 

法定後見は、現時点で実際に物忘れが酷かったり、判断能力が低下していたりすることにより、契約や財産管理ができない場合、家庭裁判所に申し立てることによってスタートします。そのときに後見人に選ばれる候補者を立てることはできますが、原則として裁判所が決定しますので、必ずしも親族が選ばれるとは限りません。財産管理等の難易度が高いと判断されると、専門職である司法書士や弁護士が選ばれることになります。

 

これに対して、任意後見は、将来もし判断能力が低下した場合には、誰を後見人にしてどのように任せるかをあらかじめ決めて、本人が選んだ将来後見人になる人と任意後見契約を締結します。そして、実際に判断能力が低下した時点で財産管理等がスタートするというものです。

 

 

・法定後見・・・すでに認知症や精神障害があって、今すぐ財産管理等が必要

 

・任意後見・・・今は元気だけど、将来もし認知症や精神障害になってしまった場合に備えて、財産管理等をしてくれる人を決めておきたい

 

逆にいうと、今元気な方は法定後見を利用することはできないし、すでに認知症等の方は任意後見を利用することはできません。任意後見契約は「契約」ですので、当然ながら契約するための判断能力がなくなってからでは、利用することができないのです。

ここが2つの制度の1番大きな違いです。

 

法定後見と任意後見の利用者の割合については、法定後見が98.8%、任意後見が1.2%というデータがあります(※)。これは一体どういう世情を映しているでしょうか。

それは、法定後見の多くは、実際に本人の家族が「預貯金が引き出せない」、「土地の売却ができない」、「遺産分割協議ができない」「介護施設の利用契約ができない」といった緊急の現実に直面し、必要に迫られてから法定後見制度を利用しているからです。

(※厚生労働省による平成29年末時点での調査結果に基づく)

 

現在日本は超高齢化社会に突入しているため、必要に迫られてこの制度の利用を開始される方は年々増え続けています。これに対して、1.2%しか利用されていない任意後見は、元気なうちに準備を始めなければならないため、現状での利用者はごく少数に留まっています。元気なうちに「もし自分が認知症になったら・・・」と、自主的に備える気持ちにはならないのでしょう。

しかし、知っている上で任意後見制度を利用しないというのならそれでもよいですが、「知っていたら利用したかったのに」という人が多いのは問題があります。これは私のような専門家が情報の周知徹底をできていないことも原因の1つだと反省しています。

 

話はそれましたが、任意後見はあらかじめ契約をすることにより認知症等に備えますが、実際に財産管理等がスタートするのは、実際に判断能力が低下してからです。本人と後見人になる契約をした方(以下、「任意後見受任者」といいます。)が裁判所に申し立てることによって始まります。つまり、任意後見受任者は、本人の判断能力が低下するまでは待機の状態です。もっといえば、亡くなるまで本人の判断能力が低下しないのであれば、何もせずに終わることもあり得るということです。

よって、任意後見の実際のスタートは、任意後見契約締結のときではなく、法定後見と同じように実際に判断能力が落ちてから裁判所への申し立てをして、審判が確定したときです。もっと具体的にいうと「任意後見監督人」といって、任意後見人がしっかり管理をしているかどうか監督する人を家庭裁判所が選任することによりスタートします。法定後見においては、監督人が就く場合と就かない場合がありますが、任意後見においては必ず監督人が就くという違いがあります。

 

(2)法定後見人と任意後見人の「権限」の違い

法定後見は、さらに3類型に分けられます。補助・保佐・後見の3つがあり、どの類型に当てはまるかどうかは、医師の医学的な判断を参考にするなどして、家庭裁判所が決定することになります。

各類型は、次のように判断能力に応じて分類されます。

     後見・・・常に判断能力を欠いている方      重度

     保佐・・・判断能力が著しく不十分な方       ⇕

     補助・・・判断能力が不十分な方         軽度

 

 本人の精神障害の度合いは「補助→保佐→後見」の順に、より重度になります。法定後見を利用される方の中でも、「認知症が重度のため、ほとんど自分で管理ができない方」から「単に金遣いが荒く、自分で管理できない方」まで様々であるため、3類型にわけてあるのです。

 

 

後見

保佐

補助

対象となる方

判断能力が欠けているのが通常の状態の方

判断能力が

著しく不十分な方

判断能力が

不十分な方

申立てをすることが

できる人

本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など
市町村長(注1)

成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意が必要な行為

民法13条1項所定の行為(注2)(注3)(注4)

申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部)(注1)(注2)(注4)

取消しが可能な行為

日常生活に関する行為以外の行為

同上(注2)(注3)(注4)

同上(注2)(注4)

成年後見人等に与えられる代理権の範囲

財産に関するすべての法律行為

申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注1)

同左(注1)

制度を利用した場合の資格などの制限

医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど

(注5)

医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失うなど

(注1) 本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(注2) 民法13条1項では、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為が挙げられています。
(注3) 家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができます。
(注4) 日常生活に関する行為は除かれます。
(注5) 公職選挙法の改正により、選挙権の制限はありません。
※法務省ホームページより引用(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a2)

 

後見については、ちょっとした日用品購入等の「日常生活に関する行為」以外の行為については、後見人は取り消すことができます。例えば、高価な絵画を購入したり、車を買ったりする行為は、普通の人にとって「日常生活に関する行為」とはいえないため、後見人は取り消すことができます。このように後見人は、本人(「被後見人」といいます。)の権利を守るために、後出しで取り消す権限が与えられているのです。
後見と違い、保佐の場合は、法律で定められた範囲内で、特に重要な手続きのみ代理権や同意権の行使が可能な制度となっています。補助の場合は、もっと自由度が増して、特に重要な手続きの中から代理権や同意権の範囲を選択することが可能です。
なぜなら、本人(それぞれ「被保佐人」・「被補助人」といいます。)は、被後見人と違って、常に判断能力を欠いている状態ではないため、一部の重要な手続きのみ支援してあげるだけで十分だからです。

※特に重要な手続きとは、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築等の行為をいいます。

 

法定後見は、本人の財産を守るための制度であるため、本人の資産が減少する可能性のあることは原則として行なうことはできません。それはつまり、法定後見は、本人のためになることしか行なうことができないということです。「そんなことはあたり前だ」と思われるかもしれませんが、ここが意外と法定後見制度の急所となる問題です。
例えば、親族から、「相続税対策をして欲しい」「保険契約をしてほしい」「孫に住宅資金の贈与をしてほしい」と頼まれたとします。たとえ、本人の判断能力がしっかりしているときにそのような口約束をしていたとしても、本人の判断能力が低下してしまった今、もはや本人が本当にそれを望んでいるのかについては確認ができません。
これらの行為は、親族の利益にはなりますが、客観的には本人の財産を減らす行為となるため原則として行なうことができません。
また、積極的な資産運用や投機的な行為も同じです。資産運用は、資産が上昇すればもちろん本人のためになりますが、100%上手くいく保証などありません。実際に財産が増加するかどうかではなく、本人の財産が減少する可能性のある行為をすること自体に問題があるのです。
法定後見は、あくまでも本人の財産を「守る」ことが求められており、積極的に「増やす」ことは求められていないのです。

 

これに対し、任意後見は「契約」ですので、お互いの合意で任意後見人の権限をどのような内容にすることも可能です。 つまり、自分の元気なうちに、自分が必要だと思うことを契約によって決めておくことができ、具体的に管理してほしい財産や、自宅の売ることになった際の希望等を、決めておくこともできます。
このように後見人の権限を自由に「カスタマイズ」することができることが、任意後見最大のメリットといえます。任意後見は、誰を後見人にし、どういった代理権を与え、どのように財産を管理するのかを、判断能力がハッキリしている本人自身が自由に決めることができるのです。
任意後見においては、法定後見とは異なり、任意後見契約書に記載されていれば、それは紛れもなく本人の意思であるため、「相続税対策」「積極的な資産の運用」「贈与」等も任意後見人が行なうことも不可能ではありません。
例えば、法定後見であれば、自宅の売却をするときには家庭裁判所の許可を得なければ売却することはできませんが、任意後見においては、自宅の売却が可能である旨を定めておくと任意後見人は裁判所の得ることなく売却することができます。
ただし、あくまでも本人の財産を、任意後見人が管理処分するということには変わりありませんので、本人が任意後見契約の意味を十分に理解し、親族の思惑で契約させられないように注意しなければなりません。本人の契約意思が慎重され、本人の権利が不当に害されないかをしっかり確認して行なう必要があります。そのためには、本人の資産が減少する可能性のある行為については、無制限に任意後見人の判断で代理できないように、時期・条件・金額・期限・理由等をしっかり記載し、誰が見てもわかるように客観的な判断基準や制限を記載しておくべきでしょう。また、一定の代理行為については、任意後見監督人の同意を要するようにしておく等の工夫が求められます。

(3)任意後見のデメリットとは?
いいことばかりのように聞こえる任意後見ですが、デメリットもあります。
デメリットは、主に次の3点があげられます。

① 取消権がない
② 契約で定めていないことは、代理権がない
③ 公正証書によって作成しなければならない

 

①は、法定後見に比べて、大きなデメリットといえます。判断能力の低下した本人が不利な契約をしたり、騙されて不要な物を買わされたりしたら、法定後見の場合は取消すことができますが、任意後見の場合はその契約を取り消すことができません。取消しするには、一般の方と同じように最終的には裁判所に訴える形で、契約する判断能力がなかったことをわざわざ立証して取消しすることになります。
よって、任意後見を利用していて、もし本人が認知症や精神疾患の症状で不必要な契約を行なう傾向が見られる場合は、任意後見から法定後見へ移行することを検討した方がいいでしょう。

 

②は、メリットと表裏一体です。契約の内容を自分でカスタマイズするという事は、逆にいうと、契約で決めていないことについては、任意後見人は手を付けることができないということになります。したがって、認知症になったあとに「権限を変更したい」「契約の内容変更したい」と思っても後の祭りです。
ただし、想定していないことが起こってしまい任意後見では不都合が生じたときには、任意後見から法定後見へ移行することもできるため、取り上げるほどのデメリットにはならないかもしれません。

 

③任意後見契約書は、公正証書によって作成しなければならないことになっています。公正証書にすることは、一応手間がかかるため、あえてデメリットに挙げました。

 

任意後見契約を公正証書にするためには、公証役場にて以下の費用がかかります。
 
【公証役場の手数料】
1契約につき1万1000円、それに証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます。
【法務局に納める印紙代】
2,600円
【法務局への登記嘱託料】
1,400円
【書留郵便料】
約540円
【正本謄本の作成手数料】
1枚250円×枚数

 

なお、任意後見契約と併せて、通常の委任約をも締結する場合には、その委任契約について、さらに上記1が必要になり、委任契約が有償のときは、公証役場の手数料が増額される場合があります。また、受任者が複数になると(共同してのみ権限を行使できる場合は別として)、受任者の数だけ契約の数が増えることになり、その分だけ費用も増えることになります。(※費用については、日本公証人連合会ホームページより引用)

以上のようなデメリットもありますので、任意後見の利用を考える際には、将来的に起こり得るあらゆる状況を想定し、任意後見契約の内容を検討していく必要があります。

 

(4)任意後見にも3種類ある!
任意後見契約には「即効型」「将来型」「移行型」の3種類があり、本人の状況や希望によって選択することができます。

 

【即効型】・・・任意後見契約書の作成と同時に、任意後見が開始するタイプ。
すぐに財産管理等が必要な場合に有効であり、本人の判断能力が法定後見の「補助」程度に低下している場合には、この即効型を選択することができると考えられます。
この即効型は、契約締結時の本人の判断能力が低下している状態であるため、契約そのものが無効になったり、鑑定に時間を要したりするおそれがあることがデメリットといえます。

 

【移行型】・・・任意後見契約書の作成から、本人の判断能力が低下して任意後見契約が発効されるまでの間は、任意代理を行なうタイプ。
本人の判断能力はしっかりしているが、身体が不自由で思うように動けないため、日常のあらゆる手続き等を代理してほしい状態の方にオススメです。判断能力があるうちは、代理人に様々な手続きを代理してもらい、判断能力が低下した時点で任意後見契約が発効するため、判断能力が低下する前後の切れ目なく代理できることがメリットです。
実際に私が経験したのは、本人の判断能力はしっかりしているが、足が悪く、銀行の入出金や郵送物の受け取りは不可能なため、すべて姪にお願いしている状態の方でした。姪が本人の代わりに郵便局に郵便物を受け取りに行ったら「大事な書類ですので、本人でないとお渡しすることができません。」と断られ、何とか毎回事情を説明して受け取っていました。しかし、郵便物の受け取りがある度に毎回同じ説明をしなければならず、手続きが大変なため、郵便物の受け取りとなると気が滅入るばかりだったのです。そこで、私は移行型の任意後見契約をご提案し、本人と姪との間で移行型任意後見契約を締結しました。契約後は、受任者である姪が郵便物の受け取りや銀行の入出金など、問題なく本人の代わりに手続きを行なうことができたため、大変感謝されました。
このように、現時点で様々な手続きを代行している方にとっては、移行型任意後見契約によってすぐに効果があるので大変便利に感じられると思います。また、認知症となってしまった後も、引き続き任意後見人として代理を続けることができますので、双方にとってメリットのある制度です。

 

【将来型】・・・任意後見契約書の作成だけして、判断能力の低下に備えるタイプ。
この将来型においては、本人の判断能力が低下して任意後見契約が発効するまでの間は、移行型のように代理権を設定しないタイプです。よって、現状は頭も身体も元気で日常生活に問題はないが、もし認知症になったときに備えて後見人を決めておきたい方にオススメです。
ただし、この将来型の任意後見契約は、まさに将来のことであるため、予定している任意後見人と本人との関係が疎遠になったり、関係が悪化したりして、後見を開始できない可能性もあるのがデメリットといえます。
また、近くに住んでいない場合は、本人の判断能力が低下していても、それに気付かず、任意後見の開始が遅れてしまうおそれもあります。そのため、なるべく定期的に本人の状態を確認する契約(「見守り契約」といいます。)とセットで行なう等の工夫が必要です。

 

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遺言先進国イギリスでは遺言は「紳士のたしなみ」

2023-04-14

日本において、遺言書の必要性を認識している人の割合は実に約60%ともいわれています。

 

では、実際に作成している人の割合は何%だと思いますか?

 

驚くことに、日本では約6%しか作成されていません。この数字から「遺言書の大切さはわかってはいるが、作るのに一歩踏み出せない」という気持ちがうかがえます。

日本人は昔から、死やお金に関して話をすることをよしとしませんが、イギリスの調査機関が実施した調査によると、イギリスでは75歳以上の82%が遺言書を作成しているといいます。「遺言は紳士のたしなみ」とされ、「責任ある大人になったら遺言を書くのは当たり前だ。」「遺言を書かないなんて無責任な人間だ。」という考え方が浸透しているのです。

 

具体的に、どのような感覚で遺言を作成するかというと、例えば、日本では結婚を期に生命保険契約をして、受取人を配偶者や子供にしておく方は多いのではないでしょうか。感覚的にはそれくらい一般的に遺言を作成しているのです。

ちなみに、私は32歳のとき、結婚を期に公正証書遺言を作成しました。内容は単純に「一切の財産を妻に相続させる。」というものです。別に何か病気があるわけでもなく、家族関係も良好です。しかし、例えば、私に子供がいない場合、妻は私の両親と遺産分割協議をしなければなりませんし、仮に未成年の子供が2人いる場合には、子供1人1人に特別代理人(主に弁護士)を立てて、妻は弁護士2人と共に3人で遺産分割協議をしなければならないのです(※)。私は万が一のときにそのような負担を妻にかけたくないので、32歳で公正証書遺言を作成しました。

相続人に未成年者がいる場合は、大変な労力・時間・費用がかかることはあまり知られていません。若いから遺言は不要というわけではないのです。

 

 日本人もイギリス人も死亡率は同じく100%です。死は誰にでも訪れるものだからこそ、死をタブー視せずに、家族で話し合える文化を築いていくべきではないでしょうか。

 

(※配偶者と未成年者は、利益が相反するため、未成年者それぞれに特別代理人を立てなければ遺産分割協議ができません。よって、配偶者1人だけで預貯金の払戻しや不動産の名義変更はできません。)

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気持ちのこもった遺言にしよう!書けばみんなが納得する「付言」とは?

2023-04-07

温かい遺言に変身する「付言」とは?

 「付言」とは、遺言書の末尾に残すメッセージのことです。この「付言」についてはエンディングノートと同じよう法的な効力はありません。しかし、「付言」があることによって、遺産の行き先だけを書いた堅苦しい遺言書ではなく、温かい遺言書に変身するのです。付言は、公正証書遺言であっても残すことができます。

 

その内容は基本的に自由ですが、どうしてこのような内容の遺言を作成することにしたのかという遺言者の想いや、家族・お世話になった方への感謝の気持ちを伝えることが多いです。付言が書かれてある遺言書と、ない遺言書とでは、その遺言によって遺産を「もらえなかった」あるいは「少なくされた」側の相続人の気持ちが全く異なるものとなります。

 

例えば、「一切の財産を長男の甲野太郎に相続させる。」とだけ書いていてある遺言書を見て、全くもらえなかった次男 甲野次郎・長女 乙野花子は、たとえ“元々もらうつもりがなかったとしても”、その遺言書を見ると悲しくなってしまうものです。しかし、次のような付言があったらどうでしょうか。

 

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【付言】

私は3人の素直なよい子供たちに恵まれて、幸せな人生を送ることができたと心から感謝しています。長男 太郎は、私たち夫婦の老後の面倒をよく看てくれたこと、日々の病院の送り迎えをしてくれたこと、生活費のほとんどを負担してくれていたことに加え、たびたび金銭的援助もしてくれていました。

 

私の長患いのために介護の苦労までさせてしまい、申し訳なく、心苦しく思っています。太郎に対して、わずかに残ったお金と実家を相続させることにしたのはそういう気持ちからです。みな理解してください。

 

太郎、次郎、そして花子、よい人生を本当にありがとう。みんな家族仲良く、力を合わせて生活してください。お母さんは、天国でみんなを見守っています。

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 どうでしょうか。このような文章が遺言の末尾に書いてあったら、「そうか、お母さんはこういう気持ちで財産を太郎に遺したんだな。」と納得できそうだと思いませんか?遺産の行き先だけを書いた無機質な遺言書が、まさに血の通った温かい遺言書に変身するのです。

 

相続人の間では、何が公平・平等なのかということは実際のところは誰にもわかりません。どちらかというと、誰かが不公平感を感じる遺言になってしまうことの方が多いでしょう。その不公平感を少しでも和らげることができるのが「付言」なのです。

 

近年、権利意識の高まりから、遺留分侵害額請求(後日解説いたします)を行使するケースが増えております。確かに、他の相続人からの遺留分行使による遺産争いが起こらないように、相続人全員に最低でも遺留分を確保してあげるよう遺言書を書くことが得策であるかもしれません。しかし、その財産は「自分」の財産であって、本来は自由に使い、誰に遺してよいものです。

この「付言」を書き残すことにより、遺留分の行使を思い留まる相続人は多いです。ぜひ熱く、そして優しく、遺される方々に付言を記してあげてください。

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エンディングノートを書く意味とは?

2023-04-03

繰り返しお伝えしているとおり、遺言は法的な強制力があり、遺産の行き先がはっきり指定されているため、遺される相続人にとっては大変助かります。遺言の作成は終活の中でも代表的な手続きです。

 

それに対して、エンディングノートは法的な強制力はありません。しかし、形式にとらわれることなく死後の希望や、万が一認知症になったときにはどうしてほしいかということまで自由に書くことができます。どちらかというと、死後だけでなく生前についても様々な手続きを決定していかなければならない家族の負担を減らしてあげるもの、そして自分の生きてきた証を伝える意味合いが強いものだといえます。

 

エンディングノートを書く意味は大きく3つあります。

  • 重要な事項を伝えておくこと
  • 自分の希望を伝えておくこと
  • 感謝の気持ち、そして自分の歩んできた人生を伝えておくこと

 

エンディングノートには、法的な強制力がないため、「書いても意味がないのでは?」と思われがちですが、そんなことはありません。

例えば、自分が喪主を務めることになったと想像してみてください。葬儀の費用について、どのくらいの祭壇にすればよいか、どのくらいの棺桶にすればよいか、権利証などの重要書類はどこに保管してあるか、そして一体誰に訃報を知らせばよいか等、即答できるでしょうか。

 

葬儀の打ち合わせのときは考える時間が十分になかったり、気が動転していたり、さらに相場もよくわからないことから、葬儀社のオススメ商品を選んでしまいがちです。価格が松・竹・梅と用意されていると「なんだか一番安い価格のものは選べない」という気持ちになるので、ついつい真ん中の価格のものを選んでしまいます。実は、葬儀社が最も売りたい商品がその真ん中の価格の商品であることが多いのです。もし自分の中で、「棺桶はすぐに焼いてしまうものだから、一番安いものでよい」と考えているのであれば、エンディングノートのしっかりその旨を記入しておくことで喪主は迷うことなく商品を選ぶことができます。

また、自分がもしものときに親しくしている友人に知らせてほしくても、子供は親の友人の住所や電話番号などは案外知らないものですので、エンディングノートに「もしものときに知らせてほしい人リスト」を書いておくとよいでしょう。

 

このように、大切な人が一番悲しんでいるそのときに、多くの決断を迷いながらしなければならないため、自分の最期を迎える準備として介護・医療・葬儀・供養など、自分の希望を書き残しておくことには大きな意味があります。

 

エンディングノートで一番特徴があるのは「感謝の気持ち、そして自分の歩んできた人生を伝えておくこと」です。エンディングノートは、いわば真っ白なキャンパスに自分の思うままに何でも書けることが醍醐味ですので、自分の人生を振り返って自分史や思い出を綴ってみるのもすごく素敵だと思います。

学生時代にどのような活動をしていたか、卒業してからはどこに住んで、どのようなことに努力してきたか、またその時に感じた悔しかったこと、楽しかった思い出など、それを読んだ家族は、思いを馳せて涙を流すかもしれません。それに、一度立ち止まって自分の人生を振り返ることは、第2の人生をスタートさせるにおいて重要な分岐点となるはずです。 

 

遺言とエンディングノートにはそれぞれメリット・デメリットがありますので、結論からいうと、両方残すのがベストです。しかし、同時に取り掛かるのはハードルが高いと思いますので、まずは気軽に取り組めるエンディングノートを書いてみるのがよいかもしれません。市販のエンディングノートも多数ありますが、大抵はすごくボリュームのあるものとなっており、書ききれず途中で挫折する方が多いように思います。よって、最初から最後まで書かずに、自分が必要と思うところだけ書いて、あとは気が乗るところを追加するぐらいの気持ちで気軽に書くのがよいでしょう。

 

遺言書もエンディングノートも、人知れず書いただけでは、死後発見されず、意味をなさないものになってしまうリスクがあります。自分のお世話になっている方、または死後に手続きしてくれる方に渡しておくか、保管場所をしっかり伝えておきましょう。

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まとめ

 

エンディングノート

遺言書

遺書

法的効力

なし

あり

なし

伝える内容・目的

葬儀の方法・供養の方法・余命宣告の考え方などの相続人が迷いがちな死後の具体的な手続きの希望を伝える。自分史など自分の人生の記録を残しておく。

遺産争いにならないように、遺産を誰に遺すのか指定する。付言で、自由に気持ちを伝えることも可能。

死ぬこと・亡くなることを前提として、自分の気持ち書いた手紙

書き方

自由

規定された書き方で書かないと無効になるので注意。公正証書遺言が安心。

自由

書き直し

いつでも可能

いつでも可能

いつでも可能

費用

数百円~

・自筆証書遺言の場合:数百円~

・公正証書遺言の場合:数万円~20万円程度(資産に応じて増減)

数百円~

遺言と遺書は、まったくの別物!

2023-04-01

遺言と遺書は、まったくの別物!

遺言に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。大半の方のイメージとして、「縁起が悪い」「堅苦しい」「遺産争い」など、どちらかといえばマイナスのイメージがあるのではないかと思います。私見ですが、なぜ遺言について「縁起が悪い」イメージがあるのかというと、“遺言”と“遺書”の名前がそっくりなことに原因があると思っています。事実、多くの方が遺言のことを間違えて“遺書”と呼んでいます。

 

遺書とは、今から自ら命を絶とうとする人が、最期に気持ちを書き残す文書のことです。これは確かに縁起が悪いものといえるでしょう。遺言とは、お世話になった人に自分の財産に関する「法的」な手続きです。

 

こちらはむしろ温かみのあるものであって、決して縁起の悪いものではないのです。私は、名前が“縁起の悪い遺書”とそっくりなせいで、日本で遺言を作成する文化が根付かないと思っているので、いっそ“遺言”などという名前をやめて、例えば「遺産承継宣言」や「遺産受取人指定書」等という名前に法改正すれば、もっと日本で遺言の作成が普及するのではないかと思っています。

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特に遺言を遺した方がいい人はこんな人(その2)

2023-03-28

それでは、前回に引き続き、1つずつ解説していきます。

 

□ 夫婦の間に子供がいない

個人的にこれがNo.1です。

夫婦の間に子供がいない(両親もすでに他界している)となると、前述のとおり、配偶者だけではなく、兄弟姉妹も相続人となるため、非常にトラブルになるケースが多いです。つまり、夫婦の間に子供がいない場合、残された配偶者は、亡くなった配偶者の兄弟姉妹全員から実印押印・印鑑証明書をもらわないと土地の名義変更はおろか預金の引き出しすらできないのです(※2)。もしも、その兄弟姉妹が亡くなっている場合は、さらにその兄弟姉妹の子(甥・姪)全員から実印押印と印鑑証明書をもらう必要があります。これはあまりに酷であり、大変な労力を伴います。

 

今まで二人三脚で築き上げた財産を兄弟姉妹に分けないといけなくなるのは、不本意ではないでしょうか。しかし、場合によっては、夫の先代から受け継いできた土地や自社株式などの財産が、妻の親族にすべて相続されてしまうのは夫側の親族も不本意だろうと思います。それならそれで、夫の兄弟姉妹が承継していくべき財産はその意向通りに承継できるように遺言書を作成すべきです。このように、遺言書を作成しておくことによって多くの問題が解消されます。

 

このケースで遺言書を作成しておくべき理由は、もう1つあります。それは、兄弟姉妹には「遺留分がない」ということです。遺留分とは、たとえ遺言書があったとしても最低限度守られる相続分のことです(※3)。遺言によって相続する財産を少なくされた被相続人(※4)の配偶者・子・親には「ちょっと待った!」と言える権利保障されているのですが、兄弟姉妹には保障されていないのです。つまり、遺言書の内容が100%実現しますので、後で揉める可能性がありません。(※5)

 

(※2)預貯金制度の仮払い制度を利用すれば、遺産分割前でも一部預金を引き出すことができます。

(※3)遺留分の詳細については、後日解説します。

(※4)相続手続き行なう際に、財産を遺して亡くなった方のことを「被相続人」といいます。

(※5)認知症や精神障害等があり、意思能力がないのに無理やり書かされた遺言書は当然に無効です。

 

□ 離婚歴があり、前妻(前夫)との間に子供がいる

前妻との間に子供がおり、そして、後妻との間にも子供がいる場合、遺された子供は出会ったこともない腹違いの兄弟姉妹と遺産の分け方を話し合い、実印押印と印鑑証明書をもらわなければなりません。通常は、お互い住んでいる場所も本籍地も知らないため、司法書士等の専門家に依頼して戸籍や住所の調査を行なうことが多いです。

 

これは遺された子供にとっては大変な労力です。後妻とその子どもたちも大変な思いをしますが、逆に、前妻の子からすればいきなり遺産分割の法的書類が届くわけですから「今更なんだ!」と憤慨してしまうこともよくあります。無駄なトラブルを避けるためにも、遺言を遺しておくべきケースです。

 

 

□ 内縁関係(事実婚)である

現在の日本では多様な夫婦の形があり、内縁関係であっても判例上も多くの権利が認められてきておりますが、「相続」に関してはあくまで法律婚を重視し、内縁関係の方には相続権を認めておりません。(※例外としてアパートなどの賃借権については相続できます。)

 

私が実際に経験した案件で、内縁の夫 甲野太郎(仮)が死亡し、内縁の妻 乙野花子が「私のすべての財産を乙野花子ゆずる」とだけ書いてある甲野太郎の自筆証書遺言書を持って来られたことがありました(挿絵参照)。結論からいうと、この遺言は「有効」だけど「使えない」遺言書という結論になり、銀行口座の引き出しや土地建物の名義変更(登記)は一切手続きできませんでした。

 

なぜでしょう?

この遺言書には「ゆずる」という不適当な書き方(※)を含めて色々な不備がありましたが、一応法律上の要件を満たしているため、「有効」な遺言書でした。しかし、その遺言書を書いた人物ともらう人物の「特定」ができなかったのです。

 (※相続人でない人に、遺産を遺したい場合は「遺贈する」と書くのが適切です。)

 

どういうことかというと、例えば、1億円が入った甲野太郎名義の銀行口座があったとしても、銀行の立場からすれば、「この遺言書を書いた甲野太郎と、口座名義人 甲野太郎が同一人物であるかわからない」し、「遺言書に書いてある乙野花子が、今まさに窓口で1億円を引き出そうとしている乙野花子と同一人物からわからない」ということです。要は、同姓同名が他にもいるかもしれないから手続きできないのです。これは不動産の名義変更(登記)でも同じ理由で手続きできません。

 銀行の立場に立って考えてみてください。手書きのこの遺言書を持ってきた乙野花子に対して、皆さんは1億円払い戻しできますか?できないはずです。もし、この乙野花子の同姓同名の人物が別に現れたときは重大な責任問題となるからです。

 このケースでは、甲野太郎と乙野花子の本籍・住所・氏名・生年月日まで書いていれば問題なく手続きできたと思われますが、それはもう後の祭りです。(なお、仮に乙野花子が内縁関係ではなく、結婚して戸籍上「妻」と表示されていれば、常識的に妻に相続させる意図であろうという解釈で手続きできた可能性は高いと思われます。)

 

結論としては、遺産は内縁の妻には全く承継されず、甲野太郎の2人の子供にすべて相続されて、甲野太郎さんの想いは実現されませんでした。

 

このように、自筆証書遺言においては、不備が十分にあり得ますので、注意が必要です。この点においては自筆証書遺言の方式が緩和された改正後においても同じです。大切な方に財産を遺すためには、公正証書遺言を作成しておいた方が無難です。

 

 

□ 推定相続人(相続人になる予定の人)の中に認知症・知的障害者・行方不明の方がいる場合

相続人の中に認知症・知的障害者・行方不明(以下、「認知症等」という。)の方がおられる場合には、自分自身で意思表示が十分にできないため、そのままでは相続手続きを進めることはできません。まず、家庭裁判所に対して認知症等の方の代わりに財産管理を行なう成年後見人(※3)や不在者財産管理人(※4)(以下、成年後見人等という。)を選任するように申立てし、その選ばれた成年後見人等と共に遺産分割をしなければならないことになっています。なお、成年後見人等は本人の財産を守ることが仕事ですので、法定相続分の財産を受け取らなければ実印を押すことはありません。

 

一体どういうことなのか。事例で考えてみましょう。

相続人が配偶者と子供2人の場合で、遺産は1000万円の価値のある実家だけというケースで考えてみます。法定相続分は配偶者500万円、子供はそれぞれ250万円ずつです。

 

もし仮に、これが相続人全員元気な方であれば、「自宅は長男が相続する」と話がまとまれば、シンプルに長男は自分に名義を変えて、「他の相続人は何も受け取らない」という内容で終了する、ということも可能です。法定相続分が法律で決められていても、話し合いで自由に分けることができるため、他の相続人が「ゼロでもいいよ」というのならそれでよいからです。

しかし、事例のように認知症等の方がいる場合は話が違います。繰り返しになりますが、成年後見人等は本人の財産を守ることが仕事ですので、法定相続分の財産を受け取らなければ実印を押すことはありません。この事例の場合、成年後見人は法定相続分250万円を守らなければなりませんので、長男は二男(二男の成年後見人)に対して250万円を支払わなければ、実家を自分の名義に変えることができないのです。このように、認知症等の方がいる場合は、自由に遺産分割をすることができず、法定相続分どおりの遺産分割を強いられるため非常に手間・お金・時間がかかります。

 

このようなケースでは、相続手続きがすべて終わるのに半年以上かかることも多く、相続人の労力は並大抵のものではありません。さらに、成年後見人等の仕事は、この相続手続きが終わって「はい、おしまい」とはいかず、本人が死亡するまで成年後見人等を付けておかなければなりません。成年後見人等に報酬を払い続けることを考えると、「たった一度の相続手続きのためだけに、亡くなるまで成年後見制度を利用することになるのか」と二の足を踏んでしまうことも多いのが実情です。このケースも、遺言を遺しておくことによって速やかに相続手続きを完了させることができたケースといえます。

 

厚生労働省が公表している推計データによれば、認知症と診断された65歳以上の高齢者は、2020年にはおよそ292万人に達し、また別の記事では2030年には認知症患者の保有資産が215兆円に達するとの予想が出ています。この215兆円という数字は、なんと日本全体の家計金融資産の10%を超えるそうで、つまり日本で10%ものお金がまったく動かない凍結状態になるのですから、これはちょっとした金融危機です。認知症になってしまったら、「生前贈与」「売買契約」「遺言」「投資」など、あらゆる相続対策は行なうことができなくなりますので、自分は大丈夫だと思わずに早めの対策を取っておくべきです。

 

認知症と診断されていなくても、年齢を重ねると共に判断能力が低下することは自然なことですので、将来自分の親や自分自身が認知症になったときのことを頭に入れて対策しておくことをオススメします。

 

□ 土地・建物を所有している

 土地・建物が遺産に含まれている場合は、その土地・建物を相続する予定の方は注意が必要です。よくあるのが地元に残っている長男が実家を相続するパターンです。

例えば、相続人は子供2人(長男・長女)で、遺産の内容が「土地・建物 1,000万円」、「預貯金 1,000万円」の合計2,000万円とあるとします。ありがちなのが、都会に嫁いだ長女は土地・建物はいらないので、「実家はお兄ちゃんが住んでるし、お兄ちゃんのものでいいけど、預貯金1,000万円は私のものでいいよね」と主張されるケースです。

長男が「親の面倒を看たのは俺たち夫婦なんだし、建物の修理や固定資産税のことも考えると、預貯金もある程度もらわないと割が合わないだろ」と主張すると、もう話がまとまりません。もし妹がある程度理解してくれて、親への貢献度を考慮してくれれば「私は300万円だけでいいよ」という風に話がまとまるのですが、最近は権利意識の高まりからか、法定相続分はしっかり主張される方が増えてます。

このケースで、実家に住んでいる長男が実家を相続するしかないと考えるなら、預貯金1,000万円すべては妹が相続することになります。長男は実家に住み続けることはできますが、もらえるお金はゼロです。

たとえ少額であったとしても遺産を遺す親として、「世話になった息子・娘に少しだけでも多くの遺産を遺してあげたい」「無用な話し合いはさせたくない」と考えるのであれば、公正証書遺言を作成しておくとよいでしょう。

 

□ 自営業・会社経営をしている

 ご自身でご商売をされている方は、特に遺言書の必要性は高いです。これは個人事業主でも、会社経営者でも同じです。なぜなら、後継者には事業で使用する資産を引き継ぎしなければいけないからです。

想像してみてください。自社の株式や営業に使っている機械、車、事務所等を後継者以外の兄弟姉妹に分けてしまったらどうなるでしょうか?経営に口を出されたり、事務所を共有したりしている場合ではありません。酷いケースになると、事務所を担保に入れて、銀行から借金してまで兄弟姉妹にお金を支払うケースさえあります。

事業承継については、公正証書遺言の作成だけでなく、お元気なうちから対策を取ることが大変重要ですので、司法書士や税理士等多くの専門家のアドバイスを多角的に受けることが大切です。

 

□ 子供のうちの1人と同居(又は介護)している

 先の例でも挙げましたが、兄弟姉妹のうち1人が同居をしていたり、介護をしていたりすると、遺産を平等にわけることが逆に不公平になってしまうため遺産分割が進まないことがあります。

 

 

□ 子供の仲が良くない

□ 自分の相続で家族に面倒な手続きをさせたくない

□ 相続人の数が多い

 これはとてもシンプルですが、仲が良くないと話がまとまるはずがありません。公正証書遺言を作成しておけば、遺産について話し合うことなく相続手続きができますので、面倒な手続きがなくなります。

 

□ 子供間に経済的な格差がある

 これは私の経験則に基づくものですが、相続人の間で経済的な格差が大きい場合には「①金銭感覚が違うこと」「②親に対してしてきたこと、されてきたこと」の差が大きいため、遺産分割の話がまとまらない傾向が強いように思います。親としては、経済的に厳しい子のほうに遺してあげたいと考えるのが親心かもしれません。しかし、「お金と手間が多くかかった子に遺産を遺して、裕福で色々とプレゼントしてくれた子に一切遺さない」というのは、それはそれで心苦しいものがあるだろうと思います。これは悩ましいところですが、しっかりした希望があるのであれば、公正証書遺言を作成しておくべきです。詳細は後日ブログに書きますが、遺言の中に「付言」を残すことによって、みんなが納得する遺言に変身させることも可能です。

 

□ 相続人以外の人に遺産を遺したい。又は、寄付がしたい。

 相続人以外の人(仮に「Aさん」とします。)に遺産を遺したい場合は、生前に贈与しておくか、死亡をきっかけとして遺言によって贈与(「遺贈」といいます。)するのが一般的です。

例えば、遺言書がない場合は、亡くなった方の意思どおりにAさんに遺産を引き継ぐには、一度相続人が遺産を相続して、そのあとに相続人からAさんに財産を売買か贈与で引き渡すことになります。亡くなった方の名義から、相続人を飛ばしてAさんの名義にすることは手続き上不可能です。相続の手続きをショートカットできないのです。それに、遺言書がない以上は、いくら生前にAさんにあげると言っていても相続人はそれに拘束されることはありませんので、実現される保証もありません。

このような面倒な手続きだけでなく、その他の税金も色々と発生してくるため、相続人以外の方に遺産を遺したい方や、ある団体に寄付したい方は公正証書遺言を作成しておくべきです。

 

□ 相続人が全くいない。

相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。

国庫に帰属させるのではなく、お世話になった方に財産を遺したいとか、地元の市区町村、ボランティア団体、社会福祉関係の団体、または自分が素晴らしいと感じている研究団体に寄付したいと思われる場合には、その旨の遺言をしておく必要があります。

もし私が、相続人が全くいない状態で最期を迎えるとしたら、地元の図書館に全額寄付し、未来の子供たちのために「坂本将来文庫」なるものを作ってもらいます。最期くらいはかっこつけてあの世に行きたいものです。

すべて国のものになってしまうより、自分の思うように有効利用してもらうほうが有意義ではないでしょうか。自分の死後に、しっかりと遺言の内容を実現してもらうためには、信頼できる「遺言執行者(遺言のとおり執行してくれる人)」を選任しておくことが重要です。遺言執行者は、誰でもなることができますが、法律に精通している司法書士・弁護士などを選任しておくことが望ましいといえます。

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特に遺言を遺した方がいい人はこんな人(その1)

2023-03-10

遺言作成を特におすすめしたいケース 

私が多くの相続相談を受ける中で、遺言書のお話をすると必ずといっていいほど返ってくる言葉があります。

 

「うちには大した財産持ってないから、遺言書なんていらないわよ。

 

という言葉です。遺言書を作成しておくべきかどうかの判断を、財産の多い少ないという物差しだけで判断するのは危険です。

 

最近特に遺産相続に関するトラブルについて、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられることが多くなっています。実際、平成26年の司法統計によると、全国の家庭裁判所での相続関係の相談が年間17万件以上寄せられ、10年前と比べ約2倍に増えていると発表されました。相続問題といえば、「お金持ちの人だけが関係する問題」といったイメージを抱く人が多いかもしれませんが、実はデータで見てもお金持ちだけに限った話ではありません。

どのような人が家庭裁判所で相談しているかというと、自宅等の不動産を含めた財産の総額が5000万円以下の人が75%であり、財産総額が1000万円以下の人が32%も占めるのです。意外にも、ごく一般的な家庭で相続問題は起きているのです。これはあくまでも私の経験に基づく私見ですが、割合的には、お金持ちの人ほど相続で揉めていません。理由としては、大きく3つあると考えています。

 

お金持ちの人は・・・

  • 揉めることを想定して相続対策をしっかりと行なっていることが多い
  • 子供もそれぞれお金持ちであることが多い(金持ちケンカせず)
  • お金持ちは、お金持ちのところに嫁いでいることが多いので、配偶者も口を出さない

 

①②はなんとなく分かると思いますが、遺産争いで「あるある」なのが、③の「配偶者が口を出してくる」ということです。

兄弟姉妹は仲が良く、都会に出た弟は「兄貴が親の面倒をよく看てくれたから、もう兄貴にほとんど譲ってもいいと思ってるんだよね」と言っていても、弟の妻は「いやいや、あなた何言ってるの。法定相続分は必ずもらえるのだから、ちゃんともらってよね。もうすぐ子供が大学に入学するんだし…。」と配偶者が遺産分割の話し合いに口を出してくると、ほとんどの場合揉めます。

 

それを言い出すと、今度は兄の妻が黙っていないのです。

親の介護をした兄の妻からすれば、「親の介護を一切手伝ってくれなかった人がなんてことをいうの?これだけ尽くしたのに、完全に平等を主張してくるなんて許せない!」と、こうなるわけです。

 

どちらの言い分もよくわかります。経験上、烈火のごとくに争い合っている相続人の方と個別に話せば皆さんとてもいい人です。しかし、家族の歴史というか、過去にあった様々なちょっとしたわだかまりが、この「相続」を引き金として一気に噴き出すのです。

 

介護をした相続人には、寄与分(※1)が認めれる場合もありますが、揉めてしまうと寄与分の算定が難しかったり、認められなかったりする場合も多くありますので、やはり介護をされる親としては遺言の作成を考えるべきといえます。たとえ、平等に相続させたいとしても、「こういう理由で平等に相続させたい」という気持ちを遺言に書いておくことで、相続争いを回避できる可能性が高まります。

(※1)寄与分とは、故人(被相続人)の「財産の維持や増加に貢献した相続人」は、寄与分(きよぶん)として相続財産の増額を主張することができます。

 

私が様々な遺産争いを目の当たりにしたときに、共通して感じることは、「親への感謝の気持ちが足りない」ということです。親の生前にどんなに仲がよくても、遺産相続争いをするのなら、それは親の責任でもあると思いますし、結果的には子育て失敗ともいえるのではないでしょうか。

よく、相続で一度揉めると兄弟の仲は戻らないと言われます。相続におけるケンカは、普通のケンカとは違うのです。大切な親を失ったきっかけで、兄弟の縁が切れてしまうことほど悲しいことはありません。そうならないためにも、今しっかりと家族と向き合って、相続の準備しておきましょう。

 

 

次のチェックリストの中に1つでも当てはまる方は、遺言書を作成しておくことを強くオススメいたします。これらのどれか1つでも当てはまる場合は、遺言書を作成しておかないと遺された相続人の方および関係者はとても苦労をすることになりますので、公正証書遺言の作成をご検討ください。

 

公正証書遺言も一度作成したら変更できないわけではなく、いつでも何度でも書き換えることができますので、思い立ったらまず作成しておくと良いでしょう。気が変わったらまた書き直せばよいのです。

 

当てはまる項目に☑してください。

 

□ 夫婦の間に子供がいない。

□ 離婚歴があり、前妻(前夫)との間に子供がいる。

□ 内縁関係(事実婚)である。

□ 推定相続人(相続人になる予定の人)の中に認知症の方や行方不明の方がいる。

□ 土地・建物を所有している。

□ 自営業・会社経営をしている。または、農業を営んでいる

□ 子供のうちの1人と同居(または介護)している。

□ 子供の仲が良くない。

□ 自分の相続で家族に面倒な手続きをさせたくない。

□ 相続人の数が多い。

□ 子供間に経済的な格差がある。

□ 相続人以外の人に遺産を遺したい。または、寄付がしたい。

□ 相続人が全くいない。

 

いかがでしたか?

それでは次回、それぞれ個別に解説していきます。

お楽しみに!

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遺言書の種類と特徴

2023-02-28

遺言書の種類と特徴

遺言書を書いておかないとトラブルになる可能性があることは前回解説したとおりですが、それでは遺言書には主にどのような種類があるのか見ていきましょう。普通方式と特別方式の大きく2種類に分けることができ、細かくは全部で7種類ありますが、ここでは一般的な普通方式の3種類をご紹介します。

 

a)自筆証書遺言(手書きの遺言書のことです)の特徴

遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書(※1財産目録を除く)し、押印して作成する遺言です。筆記具と紙さえあればいつでも作成可能ですから、他の方式と比べると費用も掛からず手続きも一番簡単です。しかし、その反面、「法的要件不備のために無効」となる危険性が付きまといます。

私の今までの経験上、たとえ法律上遺言書が有効であっても半数以上が実際には利用できなかったり、不備があったりする遺言書です。「形式上有効な遺言書」と、「実際に使える遺言書」は、全く違うのです。

どういうことかというと、形式上有効であっても、財産の特定が不十分であったり、本当に遺言者本人が書いたものか特定できなかったり、さらには財産をあげたい人が特定されていなかったりして、実際の手続きを行なう銀行窓口や法務局でお断りされることがあるのです。

 

さらに、あと1つ、自筆証書遺言には大きな欠点があります。

 

自筆証書遺言の場合は他の方式と異なり、「検認手続き」をしなければその遺言書は使うことができません(※)。検認手続きとは、簡単にいうと、家庭裁判所に相続人全員が集まって、遺言書が検認日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。勘違いされがちですが、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

(※ただし、法務局保管制度を利用すれば、検認手続き不要)

 

せっかく遺された相続人が楽に手続きできるように遺言書を書いたのに、これでは余計な手続きが増えて大変ですし、遺産争いの火種にもなってしまいます。また、天災・窃盗が発生すると紛失してしまう可能性があることや、遺言の存在をどうやって遺族に知らせるかといった問題もあります。

 

検認手続きで司法書士等の専門家費用をかけるのであれば、公正証書遺言を作成して、死後相続人に余計なお金がかからないように準備してあげたいという方が大多数ではないでしょうか。

 

簡単に自筆証書遺言のメリットとデメリットをまとめておきます。

 

メリット

・ いつでも、簡単に一人ですぐに作れる。
・ 費用がかからない。

 

デメリット

・ 手書きしないと無効となる(※財産目録の部分は手書きである必要はありません。)。

・ 紛失や偽造・変造の危険がある。
・ 形式不備で、遺言自体が無効になるおそれがある。
・ 遺言の内容を執行する前に、家庭裁判所の検認手続きが必要となる。

 (ただし、2020年7月10日から始まる法務局保管制度を利用すれば、不要)

 

なお、2020年7月10日から始まる法務局保管制度を利用しても、実際に遺言を使う場面になると相続人全員の戸籍集めは必要となります。これが意外にも大変な労力となることがあります。

 

 

 

b)公正証書遺言の特徴

公証人に作成してもらい、かつ、原本を公証役場で保管してもらう方式の遺言です。作成・保管は公証人が行ないますので、法的に最も安全・確実で、後日の紛争防止のためにも一番望ましいといえます。

天災が起こったとしても、電子上に保管してあるため、謄本の再発行ができるので安心です。ただし、公証人費用がかかることと、2名の証人の立会いが必要なことなどがデメリットとしてあげられます。

この2名の証人の立ち合いが必要であることが意外とやっかいで、相続人になる予定の人や、受遺者(遺言により遺産をもらう人)は証人になることができないというルールがあるのです。かといって、友人に頼んで自分の財産や遺言内容を知られてしまうのはちょっと嫌ですよね。そういうときには行政書士等の専門家にお任せすれば、秘密を守りながら作成できますので、役に立ちます。

 

公正証書遺言を作成する公証人の費用は法律でしっかり定められています(全国どこで作成しても同じです)が、行政書士等の報酬は各専門家が自由に決めることになっておりますので、依頼をする前にしっかり費用を聞いてから依頼するようにしましょう。行政書士等の遺言書作成に関する報酬の相場は、一丸には言えませんが、5万~15万円が多いようです。

行政書士等の専門家を介することなく、直接公証人にお願いして作成することもできますが、原則として公証人は、依頼人の言われた通りに作成することになります。行政書士等の専門家に依頼すれば、面倒な公証人とのやりとりを代行してもらえるだけでなく、事務所によっては、遺留分・相続税・家族構成・二次相続等、様々なことを検討して依頼人に合った提案をしてくれます。相続を得意としている事務所に依頼すれば、遺言だけでなく、その他の相続対策もセットで検討してくれる可能性が高いので、あらかじめ問い合わせてみることをオススメします。

 

メリット

・ 遺言の存在、内容を明確にでき、法的にも無効になる恐れがほとんどない。
・ 公証役場で保管するので、紛失や偽造・変造の恐れがない。
・ 検認手続きが不要になる。

  • 死後に遺言を使用する際、相続人全員の戸籍集めが不要である。

 

デメリット

・ 公証人費用がかかる。(公証人手数料はhttp://www.koshonin.gr.jp/hi.htmlを参照してください)
・ 証人が2名必要である。(行政書士等の専門家が証人として立ち会うことが多い)

 

c)秘密証書遺言の特徴

こちらの秘密証書遺言の方式で作成される方は少ないです。遺言者が用紙に遺言内容記載し、自署・押印したうえで封印し、公証人役場に持ち込み、公証人および証人立会いの下で保管を依頼します。

遺言内容を誰にも知られずに済むので、偽造の防止になり、遺言書の存在を遺族に明らかにできる等のメリットがありますが、遺言内容を知っている人が公証人含めて本人以外いないため、不備があれば無効となる危険性があります。また、公証人費用が発生し、自筆証書遺言と同じく検認手続きも必要となります。

 

メリット

・ 遺言の内容を秘密にできる。
・ 代筆やパソコンでも構わない。
・ 公証人の証明があるので、偽造・変造の恐れがない。

 

デメリット

・ 形式不備で、遺言自体が無効になる恐れがある。
・ 自ら保管するので、紛失の恐れがある。
・ 証人が2名必要である。

・ 公証人費用がかかる。(公証人手数料はhttp://www.koshonin.gr.jp/hi.htmlを参照してください)
・ 遺言の内容を執行する際に、家庭家庭裁判所の検認手続きが必要となる。

 

 

以上、主な遺言書の種類について解説しました。

私一番オススメするのは、公正証書遺言による方式です。公正証書遺言で作成すれば、これだけのメリットがあり、安心して利用できることがお分かりいただけたと思うのですが、それでも無料で手軽に書ける「自筆証書遺言」にこだわる人が多いのは事実です。おそらく、死亡後に待っている検認手続きのことや無効になるリスクを知らないのでしょう。

 

私が受けた過去の案件で、自筆証書遺言に関して困ったことがありました。ある日、当事務所に電話があり、「父が亡くなったので相続手続きをしてほしい」とのご依頼を相続人Aさんから受けました。

面談して詳しく話を聞いてみると、Aさんは公正証書遺言をお持ちでした。公正証書遺言書があるなら話が早い」と思いさっそく遺言内容のとおり手続きを行おうとした矢先、相続人ではない親戚のBさんから一本の電話が・・・。

 

Bさん「私は、亡くなる直前に書いてもらった手書きの遺言書を持っている。こちらの遺言書が有効なはずなので、こちらで手続きしてほしい。」

 

さて、この場合どうなるでしょう。

「平成21年に作成されている公正証書遺言」と「平成28年に作成されている自筆証書遺言」は、どちらの遺言書が有効だと思いますか?

 

遺言書には、後で作成したものが有効になるというルールがあります。これは自筆証書遺言書であろうが、公正証書遺言書であろうが取り扱いは同じです。先と後の遺言書で、同じ内容の部分は問題ないのですが、先の遺言書とは違う内容が書かれている部分については、先の遺言書を撤回して、書き直したと判断されます。

 

その時点では、後の遺言書を有効なものとして手続きを進めるしかないのですが、もちろん相続人Aさんは黙っていません。実は、後で書かれた自筆証書遺言書は不備だらけの遺言書だったので、Aさんは「そんな遺言書は無効だ」「そもそもその時は認知症だったはずだ」「Bさんが書いたに違いない」と主張し始めたのです。

 

このような事態になってしまったので、私はとりあえず遺言書の執行は中断しました。これからは、後で書かれた自筆証書遺言書が有効か無効かを争って裁判することになるでしょう。

 

このような事態になった原因は、2回目の遺言書を自筆証書遺言で遺してしまったことにあります。遺言書は何度書き直ししても構いませんので、2つ以上の遺言書が存在することは十分にあり得るのですが、2回目の遺言書も公正証書遺言書で遺すべきでした。(Bさんが代筆・偽造した可能性はありますが、もはや誰にもわからない話です。)

 

遺言者本人の本当の意思はわかりませんが、少なくとも自分の身内同士で争うことを望んていたはずはありません。遺される大事な家族を思うのであれば、多少費用がかかっても公正証書遺言書で遺すべきではないでしょうか。

 

また、最近では、公正証書遺言を作成した理由や子ども達への気持ちを動画で残して、公正証書遺言とDVDをセットで保存される方が増えています。いわゆる、「映像遺言」というものですが、もちろん法的な効果はありません。しかし、動画で想いを遺すことによって、遺族が感動するだけでなく、それが遺留分請求の抑止力になり、遺言が「書かされたものではない」という証拠になり、さらに「公正証書遺言の作成当時、認知症ではなかった」という証拠にもなるため、法的効果はなくても実際には大きな意味があります。

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法定相続について「子供がいない場合は注意!」

2023-02-15

法定相続について

まずは、遺言がない場合の手続きをご紹介します。民法では誰が相続人となるのかを定めていますが、さらに各相続人が受け継げる相続分についても定めています。これを「法定相続分」といいます。それでは、どのように相続分を分け合うのか、よくある事例で見ていきましょう。

 

【事例1】 「配偶者」と「子」が相続人の場合・・・配偶者が2分の1、子が2分の1

※子が複数いる場合は、子は2分の1をさらに人数分に分け合った相続分となります。

【注意:非嫡出子(婚姻によらない子)の相続分を嫡出子(婚姻による子)の相続分の半分とする民法の規定は、平成25年の最高裁判決により違憲と判断されました。
上記判決の結果として、非嫡出子・嫡出子とも相続分は同じになりました。】

 

【事例2】 子供がおらず、「配偶者」と「親」が相続人の場合・・・配偶者が3分の2、親が3分の1

※両親2人とも相続人となる場合は、両親は3分の1を均等に分け合った相続分となります。

 

【事例3】 子供がおらず、両親とも他界しており、「配偶者」と「兄弟姉妹」が相続人の場合・・・配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1

※兄弟姉妹が複数いる場合には、原則として兄弟姉妹は4分の1をさらに人数分に分け合った相続分となります。

※例外として、父母を同じくする兄弟(全血兄弟)と一方を同じくする兄弟(半血兄弟)がいる場合、半血兄弟の相続分は全血兄弟の相続分の半分になります。

 

 

それでは次に、誰が相続人になるのかわかったところで、相続手続きにどのようなことが必要なのか確認していきましょう。一般的には次の5つを揃える必要があります。

 

  • 被相続人(亡くなった方)の出生~死亡までの戸籍すべてを集める。
  • 相続人全員の戸籍を集める。
  • 遺産分割協議書を作成する。

(※遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産をどのように分けるか話し合った内容をまとめた書類です。)

  • 遺産分割協議書に相続人全員の実印を押印する。
  • 相続人全員の印鑑証明書を集める。

 

ポイントは、財産の分け方について「全員の意見の一致が必要」ということです。多数決ではありませんのでご注意ください。1人でも実印を押してくれない人がいると最終的には家庭裁判所で争うことになります。兄弟姉妹が相続人になるケースは意外にも知らない方が多く、亡配偶者の兄弟姉妹の実印がなければ預金すら引き出せないため、その時になってビックリしてしまいます。

 

実際にあった案件をご紹介します。

ある日、奥様が私のところに「死亡した主人の兄弟姉妹が実印を押してくれず、預金が引き出せなくて生活に困っている」と相談に来られました。奥様としては、「二人三脚で老後のために貯めてきた預金が兄弟姉妹の実印がないと引き出せないなんて納得がいかない」と話しておられました。

その後、遺産分割協議書を作成し、奥様は勇気を振り絞って再びご主人の兄弟姉妹に会いにいきました。事情を説明し、印鑑を押してもらえませんかとお願いしたところ・・・兄弟姉妹はこう言い放ったのです。

 

「兄さんは、両親から多くの遺産を相続していた。だから、兄さんの遺産は私たち〇〇家のものであって、元々はあなたのものではない。むしろ返してください!」

 

奥様は泣き崩れてしまいました。その後、家庭裁判所で争っていましたが、心労がたたった奥様は体調を崩されて、早くお亡くなりになってしまいました。

 

この話には続きがあります。

 

奥様が亡くなったら、兄弟姉妹の4人が遺産を独占できると思いますか?

実はそうではなく、奥様の相続人である地位はさらに、奥様の相続人に引き継がれることになります。さて、一体どうなったでしょうか。

 

奥様も5人兄弟姉妹でしたので、奥様の相続権は、奥様の兄弟姉妹に相続されます。

つまり、家庭裁判所ではご主人の兄弟4人と奥様の兄弟4人の計8人で遺産を争うことになります。元々夫婦2人の財産だったはずが、遺言書をしっかり作成しておかなかったばかりに、ある意味で部外者である兄弟姉妹同士が遺産を争うことになってしまったのです。

 

ちなみに、もし兄弟姉妹で死亡されている方がおられる場合は、さらにその子にまで相続権が発生しますので、もし死亡されている場合は甥っ子・姪っ子を含めた未曾有の遺産トラブルとなっていたことでしょう。

 

次回は、遺言がある場合のお話をさせていただきます。お楽しみに!

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